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廃車を免れた貴重な1台! 60年代に配備された神奈川県警仕様ポルシェ912パトロールカー【東京オートサロン2022】

貴重な神奈川県警仕様が幕張に登場!

 高品質かつ高性能なスポーツカーとして長きにわたって親しまれたポルシェ356。その後継モデルとして1963年に登場し、いまでも量産スーパースポーツカーの傑作として数多くのファンを獲得しているポルシェ911は自動車趣味人であれば誰もが知っているメジャーな存在だ。

 しかし、当ページの主役であるポルシェ912は、自動車趣味人といえども、その魅力と本質を完全には理解できていないマイナー(マニアック)なスポーツカーだといっていい。

 人気と完成度の高さから、空冷水平対向4気筒エンジンを積む356は911の導入後もしばらくの間、継続生産された。一方で、空冷水平対向6気筒エンジンを採用した911がよりハイクラスのスーパースポーツカーになったこともあり、両モデルの間に大きな価格差が生じてしまった。

 そこでポルシェは356と911の格差を少なくすることを狙い、1965年に911をベース車として価格とパワーを抑えた“廉価版”の912をリリースした。

912は1.6リッターのフラット4エンジンを搭載

 912の外観とテクノロジーは911と実質的に同一だったが、リヤエンドに搭載されたエンジンは911用と異なり、356SCに搭載されていた排気量1.6リッターの空冷水平対向4気筒エンジンであった。エンジンの低速トルクと車体の安定性を高める目的で、エンジンの最高出力は356SC搭載時の95psから90psにダウン。

 このパワーユニットに4速マニュアルミッションが組み合わされた。 最高出力が90psというのは、1000psオーバーのクルマすら存在する今日的な視点で考えると、スポーツカーのスペックとしては凡庸だ。しかし、1965年当時の日本では十分すぎるパワーだったといえ、往時にその性能を余すことなく発揮できる場がわが国において用意された。それは完成したばかりの高速道路上で、驚くべきことにハイウェイパトロールカーとして導入されたのだ。

 日本の高速道路は1960年代に発展していったが、そのような状況下でハイスピードで走ることができる高速道路交通警察隊用の車両が必要だった。アウトバーンで鍛えられたポルシェはうってつけだったものの、やはり価格面の問題で配備が見送られていたが、ポルシェの輸入代理店であった当時の三和自動車が寄贈するかたちで導入が実現した。

京都府・愛知県・静岡県・神奈川県に配備された

 ポルシェ912のパトロールカーは4台製作され、高速道路を管轄する京都府、愛知県、静岡県、神奈川県の1府3県に進上された。1967年に、まず名神高速道路での取り締まりのために投入され、1968年に神奈川県警にも配備。

 それにより、東名高速道路、名神高速道路のほとんどをカバーできるようになったのだ。神奈川県警に配備されたポルシェ912のパトロールカーは、当時、178km/hで走っていた暴走車両を検挙。あらためて説明するまでもなく、高速道路を走るドライバーから恐れられていた。

4台中の3台は勇退後に粉砕

 この神奈川県警で活躍していたポルシェ912のパトロールカーは1968年12月~1974年12月までの6年間活躍し、その間の総走行距離は15万5943kmであった。現役時代のナンバーは「横浜8 つ 858」である。勇退後は神奈川県警察学校のロビーに展示されたが、飾られている間に廃棄処分のための予算を執行できなくなってしまったことが幸いし、民間の解体業者のもとに渡った。展示されることがなかったそのほかの3台は廃棄処分のための予算が難なく確保されてしまい、残念ながら勇退後に粉砕。この世から消失している。

 往時の写真でナンバープレートが「横浜8 つ 858」ではなく「88 さ 10-90」になっているものがある。これは神奈川県警察学校に展示しているときに、学校関係者が同時期に展示していた日産フェアレディ240Zのパトロールカーよりもポルシェ912のパトロールカーにナンバープレートが付いているほうがいいと考え、Z用を装着してしまったからだ。

 240Zのパトロールカーは現役時代に「横浜88 さ 1090」というナンバーで活躍していた。展示用のナンバープレート(本物の素材とプレス機を使用して製作)に管轄を入れてしまうと偽造ナンバーになってしまうため“横浜”が記載されていないのであった。

当時を知ることができる貴重な1台

 オートサロンのLIQUI MOLYオイルのブースに展示されたポルシェ912のパトロールカーは「たった1台のみ現存する本物」ということになる。現在のオーナーがLIQUI MOLYのオイルを愛用しており、その縁で披露できることになったという。廃棄処分扱いとなった警察車両を解体業者が民間に譲ってくれるケースは本当に稀だが、オーナー氏が足繁く通って頼んだことにより、譲渡してもらえたそうだ。

 オールペイントされることなく、現役当時のままになっているボディには「神奈川県警察」という文字がそのまま残り、貴重な存在であることを物語っている。長い年月をかけて再登録できる書類を用意し、各部をリフレッシュしたので、現在、新しいナンバープレートを付けて公道を走行しているが、その際には「警察」という文字を隠し、ルーフ上の赤色灯にもカバーを被せてパトロールカーではないことがわかるようにしている。バグガード、前面赤色灯、後方赤色灯も装備し、リヤのスピーカーはバンパー内に埋め込まれている。

 室内も当時のディテールを保っており、高速道路で取り締まりを実施するパトロールカーならではの装備であるダッシュボード上のスピード計測器やマイク/アンプなどを確認できる。フロントフードに付いていたポルシェのエンブレムは外され、旭日章となっているなど見るべきポイントがたくさんあるので、どこかのイベントで遭遇したらディテールを観察してみるといいだろう。

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