部門別で国産名エンジンのベストワンユニットを選考!
名エンジン=名機の定理をひと言でいえば、「高効率エンジン」ということになるだろう。だが高効率=ハイパワーで燃費がいいユニットが名エンジンと言い切れるほど単純なものではない。①パワーがある/②ドライバビリティに優れる/③軽量コンパクト/④パンチがある/⑤レースで活躍/⑥耐久性に優れる/⑦発展性に優れるなどなど、理由はさまざまだが、長きに渡り日本人に愛されたエンジンこそ名機であり名エンジンと言えるだろう。
そうしたさまざまな条件を鑑み、ガソリンエンジン全盛時代を代表する各メーカーの名機を振り返ってみよう。
【ハイパワー部門】日産RB26DETT/2.6L直列6気筒DOHCツインターボ
平成以降の国産エンジンのなかで、総合首位といえるのはやはり第2世代スカイラインGT-Rの心臓部である「RB26DETT」だろう。RBシリーズのルーツは、1960年代に登場し、直4の1.3Lから直6の2.8Lまで4種類のボアと7種類のストロークの組み合わせで、多くの車種に搭載されてきたL型エンジン。
このL型はメルセデス・ベンツのM180型を下敷きに設計されたと言われているが、その日産の直6エンジン最終進化型こそがRB26DETTといっていい。
グループAレースで勝つことを優先し、レースレギュレーション上ターボ換算で排気量が4.5L以下になる2640ccに限りなく近くなるよう、2568ccに設定した。ツインターボ、大型前置きインタークーラー、6連スロットル、ナトリウム封入エキゾーストバルブ、クーリングチャンネル付きピストン、直動式軽量インナーシムバルブリフターなどの当時の最新技術を惜しげもなく投入。市販状態で300ps仕様(自主規制で280psにディチューン)、レース仕様では600psになるように設計された。
エンジンブロックも標準の05Uに加え、強度を増した24U、通称「N1ブロック」が用意され、チューニングすることで1000psオーバーも可能だった。1000psに耐えられる国産エンジンは、長らくこのRB26DETTだけだったことからもこのエンジンの優秀さがわかる。しかも、ただパワーが出せるだけでなく、グループAでも4000~8000回転まできっちり使うことができ、これだけパワーバンドの広い量産ベースのレーシングエンジンはなかったはずだ。
【コンパクト部門】マツダ13B/654cc×2直列2ローター(自然吸気、ターボ)
ロータリーエンジンの強味は、高回転までよく回り、ハイパワーでコンパクトであること。とくにコンパクトさについては、レシプロエンジンの追随を許さないものがある。
13Bロータリーエンジンの外径は、ミッションケースとほとんど変わらないほど小さい。1995年の東京モーターショーで公開された次世代REコンセプトカー「RX-01」は、フロントガラス下端より後方、フロアトンネル内にREエンジンを押し込む「セントラルミッドシップ構想」を打ち出し、REならではの理想的なパッケージとなっていた。この思想はRX-8にも活かされている。
【汎用性部門】トヨタ3S-G/2L直列4気筒DOHC(自然吸気、ターボ)
トヨタの名機といえば3S-G。WRC(グループB、グループA)/グループC/JGTC/IMSA GTP/パイクスピーク/F3/JTCC/ダートラ/ジムカーナなど、ありとあらゆる競技カテゴリーで使用され、数多くのタイトルを獲得してきたまさに傑作エンジンだ。
ベースは丈夫な鋳鉄ブロックを持った2S-E型エンジンで、ヘッドはヤマハが開発したツインカム4バルブだ。ボア×ストロークは86.0mm×86.0mmのスクエアタイプ。1984年のデビュー当時は、2Lの4バルブエンジンとして、最軽量で強度にも余裕があるオーバークオリティエンジンだった。2007年まで23年も製造された。
市販車では、セリカ/MR-2/カルディナ/アルテッツァ/カリーナED/RAV4/カレン/カムリ/ビスタ/ガイア/イプサム/ナディアなどの多くの車種に積まれ、トヨタのグループAラリー全盛期はST165/ST185/ST205の各世代のセリカの心臓部として、ワールドチャンピオンたりの走りを支えた。
カテゴリーを問わず、20年以上モータースポーツのベースエンジンとして活躍したという実績からも、3S-Gの優秀さがわかるはずだ。
【高回転部門】ホンダF20C/2L直列4気筒DOHC(自然吸気)
馬力というのは1分間あたりの総仕事量なので、高回転になればなるほど1分間あたりの爆発数が増えるため馬力は大きくなる。だからレース用エンジンは基本的に高回転指向で、高回転になれば排気音の周波数も高くなって甲高いエキゾーストとなりかっこいい。その意味でも高回転に耐えうるエンジンは技術的にも難しいのでロマンがある!
というわけで、量産エンジンながら9000回転まで回せるF20Cは文句なく名機である。しかも通常エンジンは高回転に振れば、低中速の実用域がスカスカになり、低中速特性が良く市街地などで使いやすいエンジンは高回転が伸びない宿命にある。だが、ホンダには低速カムと高速カムを切り替えられるVTECがあるので、F20CをはじめとしたホンダのVTECスポーツエンジンは、どれも実用性とスポーツ性を高次元で両立。燃費も優れて環境と懐にも優しいエンジンだった。
とくにF20CはJTCCレースで使われたH22A改のディチューン版といえるエンジンで、レースのことを考えた市販エンジンというより、レース用エンジンを量産用に仕立て直したのはかなり珍しいケース。そしてS2000にしか載せなかった、1車種専用エンジンという意味でも思いっきり贅沢なエンジンだった。
【ベテラン部門】スバルEJ20/水平対向4気筒DOHC(自然吸気、ターボ)
現役期間が長いエンジンというのも名機の条件だとすれば、スバルのEJ20も忘れてはならない。EJ20は初代レガシィとともに1989年に登場。2020年3月までスバルの主力エンジンとして愛されてきた。SOHCのNAからDOHCターボまでさまざまなバリエーションがあり、最大の特徴は水平対向4気筒というレイアウトだ。
水平対向エンジンは、エンジン長が短くコンパクトにできて、名前の通り対向ピストンで慣性が打ち消せるため振動が出ないことがメリット。低重心ともいわれているが、補機類を考えると疑問符が拭い去れないのだが……。
とはいえ、92.0mm×75.0mmのビッグボア/ショートストロークエンジンなのでバルブ径が大きく、基本的には典型的な高回転型エンジンだが、30年以上にも渡り年次改良を繰り返し、度々「2Lターボエンジン最強」の座に輝いた。初代レガシィのターボは220psだったが、最後のWRX STI(VAB型)の限定車であるS208は329psにまで達した。