世界メーカー選手権に出場するためにデビューしたナナサンカレラ
ランボルギーニ・カウンタックとフェラーリ512BBの2トップがけん引し、1970年代後半から1980年代にかけて大きな盛り上がりを見せたスーパーカーブーム。漫画『サーキットの狼』の主人公・風吹裕矢のロータス・ヨーロッパとともに、ライバル・早瀬佐近のポルシェ911カレラRSも高い人気を博していました。フラット6をリヤに搭載するカレラRSは、V12でもなければミッド・エンジンでもないのですが、ロータス同様、紛れもないスーパーカーとして根強い人気を誇っています。今回は、そんなポルシェ911カレラRSを振り返ります。
スポーツカーのアイコンとなったポルシェ911
20世紀を代表する自動車技術者のひとり、フェルディナント・ポルシェ博士は、VWのビートルへと続く小型車を生んでいます。そして、博士の息子であるフェルディナント・アントン・エルンスト・ポルシェ、愛称“フェリー”はVWのビートルをベースとしたスポーツカーのポルシェ356を設計。
さらに博士の孫、“フェリー”の息子であるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ、愛称“ブッツィー”は、父が設計した356の後継モデルとして、今に続くスポーツカーのアイコンともなったポルシェ911をデザインしています。父と息子、そして孫と3台に亘るポルシェ一族が産み出したスポーツカーが、ポルシェ911です。
初代モデルの901型は1964年に登場、オリジナルのOシリーズから1977年に登場したLシリーズまで、ほぼ毎年、ブラッシュアップが続けられました。さらに1974年からは第二世代となる930型が登場し、以後も1989年に964型、1993年に993型、1997年に996型、2004年に997型、2011年に991型、2018年には現行モデルの992型へと移行。911の名は変わらないものの改良が続けられ、『最新のポルシェが最良のポルシェ』のフレーズに相応しい進化を続けてきました。
エンジンに関してもデビュー当時から採用していた901系の空冷水平対向6気筒OHC2Lユニットにチューニングを重ねて、デビュー当時の130psから、1968年に登場したBシリーズの911Sでは170psにまでパワーアップを果たしていました。そして1969年に登場するCシリーズでは、4mmだけボアアップして2195cc(84mmφ×66mm)とした911系にコンバートし、ベースモデルの911Tでも125ps、高性能版の911Sでは180psを捻り出していました。
さらに1971年に登場したEシリーズでは、ストロークを4.4mm伸ばして2341㏄(84mmφ×70.4mm)まで排気量を拡大。ベースモデルの911Tで130ps、高性能版の911Sでは190psへとパワーアップしています。
度重なる排気量アップはポルシェらしくなくも見えますが、ポルシェにとって最大のマーケットである北米市場における排気ガス規制の強化に対応したものでした。高出力の引き上げよりもむしろ、大排気量化によるトルク特性……低回転域でのトルクが厚みを増したことで、ドライバビリティが引き上げられたことから、マーケットでは高い評価を得ることになったようです。このEシリーズから2.4Lエンジンを継承したFシリーズの最終年度となる、1973年に登場したモデルが911カレラRS2.7でした。
ロードゴーイングカーで最高峰のレースに挑む
ポルシェとモータースポーツの関わりは、最初の市販モデル、356が世に出た当時から始まっていました。356の後継モデルとして生を受けた911も、当然のようにモータースポーツに参加し、レースやラリーで活躍することになります。
ポルシェはまた同時に、ロードゴーイングカーによるレースだけでなく純レーシングマシンによるレースにも積極的に参加していました。1969年から1971年にかけてはポルシェ917が国際メーカー選手権のタイトルが掛かったスポーツカーによる世界選手権に参戦し、3連覇を達成しています。ちなみに1968年はまだポルシェ908が主戦マシンで、デビューイヤーだった917は1勝を挙げるに留まっていました。
またこの間、GTクラスでは911が3連覇しています。もっとも、2L以下のGTカテゴリーでは制度が始まった1962年から、ずっとポルシェがマニュファクチャラータイトルを獲得し続けていました。ともかく、1971年のチャンピオンマシンとなった917ですが、翌1972年はレギュレーションが変更され、スポーツカーの排気量は3L以下に規制されることに。4.5Lエンジンを搭載していた917は、活躍する場を失うことになったのです。
そこでポルシェは、3L以下のグループ5スポーツカーとともに3L以下のGTカーが主役となる世界メーカー選手権に、ポルシェ911を投入することにしたのです。そのためのホモロゲーションモデルが911カレラRS2.7だったのです。
ここで911カレラRS2.7のベースモデルについて詳しく見ておきましょう。まずはエンジンから。Eシリーズから採用されていた911系2341㏄ユニットのボアを6mmだけサイズアップして、排気量を2687㏄(90mmφ×70.4mm)まで拡大し最高出力は210psにまでパワーアップしていました。
シャシーに関しては、マクファーソンストラット+トーションバースプリング/セミトレーリングアーム+トーションバースプリングという前後サスペンションの基本形式は変わりないものの、スプリングやダンパーが強化されていました。さらに、タイヤサイズもベーシックな911が前後ともに185/70VR15だったのに対して、911カレラRS2.7ではリヤを215/60VR15にサイズアップ。同時にホイールもリヤは7インチ幅に拡幅しています。
そしてその太いタイヤ&ホイールを収めるために、リヤのホイールアーチが大きく膨らんでいるのが大きな特徴となっていました。また、リヤシートを撤去したりバンパーをFRP製に置き換えたり、ガラスやボディの鉄板を薄いものに交換したり、と軽量化も徹底されていたのです。
その一方で、フロントにオイルクーラーが内蔵可能な大型スポイラー、リヤにはダックテール一体型のエンジンリッドを装着するなど、アグレッシブなエクステリアとなっていました。そしてサイドを走る太いストライプとCarreraのロゴが、その存在感を高めています。
ちなみに、Carrera(カレラ)とはレースを意味するスペイン語で、1954年にハンス・ヘルマンが550スパイダーで出場したメキシコでのロードレース、カレラ・パナメリカーナでクラス優勝を遂げたことに由来。ポルシェではレースに参戦できるハイパフォーマンスモデルに、このネーミングを使用しています。
実際、車両公認に必要な台数=500台を大きく超える1580台が生産され、70台近くが純レース用としてデリバリーされたようです。
911カレラRS2.7は1973年の1年限りで生産を終えていたことから“ナナサン・カレラ”の愛称で根強いファンを惹きつけているようで、いくつかのオークションでは驚くような落札価格(5000万円〜)が報じられています。しかし、現代のポルシェ911GT3に繋がる市販レーシングモデルの始祖と考えるなら、その高騰ぶりも納得できます。