サイトアイコン AUTO MESSE WEB(オートメッセウェブ)

なぜか日本でウケるヨーロッパの商用車! まもなく上陸する欧州王者の「デュカート」に期待しかない

2006年登場の3代目「デュカート」をいま日本に入れる意図とは?

 FCA(フィアット・クライスラー・オートモービルズ)ジャパンとPSAグループ・ジャパン(旧プジョー・シトロエン)が統合し、いよいよ日本市場でも「ステランティス(STELLANTIS)」グループとして動き出して早々、年初の会見で「フィアット・デュカート」をキャンピングカー・ベースとして日本に導入することが発表された。それは何を意味するのか? 探ってみよう。

「メルセデス・ベンツVクラス」と同クラスの商用バン

 2月10日から幕張メッセで開催される「ジャパンキャンピングカーショー2022」にて、日本デビューする「フィアット・デュカート」。ひとまずBtoB、つまり個人ユーザーではなくビジネス法人に限られるとはいえ、デュカートが日本市場に導入されることは素晴らしい。盛り上がり続けるキャンピングカーのブームのなかで、日本の「コーチビルダー」、つまりバン・コンバージョン用のキャンピングカー・ベースとして供給される見込みだ。しかしながらデュカートは、2020年にマイナーチェンジされたとはいえ、3代目にモデルチェンジしたのは2006年。サイズ的には申し分ないが、少し世代が旧い気もする。

 デュカートは欧州車の最大積載荷重3.5t以下の「ライト・ユーティリティ・ヴィークル(LCV)」として、最大カテゴリーに入る。同じカテゴリーには「メルセデス・ベンツVクラス」や「ルノー・マスター」がいて、すぐ下のサイズには「ルノー・トラフィック」、さらにその下に「ルノー・カングー」があると思えばわかりやすいだろう。

 しかもデュカートの属する欧州のフルサイズバンは、必要な荷室に応じて、全長と車高も数種類用意される。つまり服のサイズでいえば、お馴染み「カングー」でもSサイズで、その上にMとLがあって、デュカートはLさらにはXLやXXL以上というわけだ。

 欧州製フルサイズ・バンのさらに細かなサイジングは俗に「L1H1」~「L4H3」に分類され、Lは全長を、Hは高さを表し、ホイールベースはたいていショートとミドルとロングの3種類。全幅約2mは共通だが、もっともショートボディ&ショートホイールベースでも5m&3m。全長はLの値がひとつ増すごとに大体+0.5m、全高は2.25mからHの値がひとつ増すごとに+0.25cmぐらいの感覚だ。日本に入るのはキャンピングカーベースということで、セミロングボディのロングホイールベース、つまりXXLサイズ相当のL2H2が主となるだろう。

さまざまなブランドが合従連衡を繰り返す商用車カテゴリー

 ただしデュカートの世代が旧いというのは、乗用車と同じブランド名を提げているとはいえ、欧州の商用車メーカーの合従連衡は、しばしば乗用車のそれと異なるがゆえ。初代デュカートの登場は1981年と、ステランティス・グループが成立する遥か昔のことで、「プジョー」&「シトロエン」&「フィアット」(さらに「タルボ」と「アルファロメオ」)が、イタリアはアブルッツォ州の「SEVELスッド」工場で生産していた。商用車の常でモデルチェンジ・サイクルは長く、2代目デュカートと「シトロエン・ジャンパー」&「プジョー・ボクサー」に進化したのは1994年のことだ。

 だが1980年代末にフィアットとPSAはさらに関係を強化して、北フランスの元「シムカ」工場をミニバン&商用車の生産に転用し、「SEVELノール」工場を立ち上げていた。以来、「SEVELノール」は「フィアット・ウリッセ」や「ランチア・フェードラ」、「シトロエン・エヴァジオン~C8」や「プジョー806~807」といった乗用車モデルと共用シャシーの商用車、ただし「SEVELスッド」よりひとまわり小さいシリーズを生産するのがお約束になった。

ステランティスでは水素パッケージの次世代も準備中

 それが「フィアット・スクード」や「プジョー・エクスペール(エキスパート)」、「シトロエン・ジャンピー」で、標準ボディで全長5m弱、全高2m前後というサイズ感だった。だが、ミニバンブームがオワコン化しかけた2012年、フィアットはSEVEL事業の北側、つまり「SEVELノール」から手を引いてしまった。

 そこで代わりに手を挙げたのが、ご近所のヴァランシエンヌにヤリス工場をもつトヨタだった。かくして「エキスパート2」&「ジャンピー2」には、トヨタ初代「プロエース」という兄弟車が生まれ、2016年にはこれらがモデルチェンジ。プジョーは「エキスパート3」&「トラベラー」に、シトロエンは「ジャンピー3」&「スペースツアラー」に、トヨタは「プロエース・ヴェルソ」&「プロエース2」という、商用車&乗用車の2本立てシリーズへ進化したのだ。

 いずれも「C4ピカソ」や「308」以来の「EMP2」プラットフォームに基づきつつ、とくにプジョーとシトロエンの4モデルは今やBEVとしても市販され、ミシュランとフォレーシアのジョイントベンチャーによる水素パッケージのFCV市販仕様も、限りなく完成している。しかもサイズ感としては、競合が「ルノー・トラフィック」である通り、「カングー」よりひとまわり大きい。つまりキャンパー&アウトドア需要に対して、これらも相当な有望株といえるだろう。

「カングー以上」クラスの欧州バン市場を開拓する可能性

 無論、新しいものほどすべて良し、ではないのがキャンパーやキャンピングカーの常。むしろメカニカル・パートが長年の経験を重ねてきたからこそ、信頼性が高くてベース車両として好適、という話でもある。償却も進んで欧州市場での上代も5万ユーロを切る「フィアット・デュカート」のユーロ6対応ディーゼル仕様を、一定数が必ずハケるであろうBtoB展開するのは、確かに賢明である。だが、さらにもう一歩積極的に踏み込んで、同じステランティス・グループの「ベルランゴ」&「リフター」や「カングー」よりひとつ上のクラス、「シトロエン・スペースツアラー」や「プジョー・トラベラー」が日本のアウトドア・シーンでどう受け止められるか、見てみたい気もする。

 要は「カングー」が長年耕してきたセグメントの上が、いきなり飛んで「メルセデス・ベンツVクラス」と「トヨタ・グランエース」しかない状態のところを、フィアット・デュカートのキャンピング仕様から始まって、サイズ的にも価格帯の面でも徐々に広がりを見せてほしいものだ。

モバイルバージョンを終了