奇想天外なカスタムカーを毎年出展するNATSに注目
2021年はコロナ禍の影響により、残念ながら開催中止となってしまった『東京オートサロン』。だが今年は3日間、収容定員の上限を50%に定められたことで開催されることになった。会場にはドレスアップ&チューニングメーカーによるカスタム車両だけでなく、自動車メーカーの最新車両も数多く出展され、ネットニュースやSNSでも盛り上がりを見せていた。
そこでここでは、毎年多くの車両を出展する日本自動車大学校(以下、NATS)カスタマイズ科の生徒たちによる作品に加えて、そのほかの学科の生徒による車両も紹介する。
また注目してほしいが、昨年オートサロン自体が中止となったために披露できずに卒業を迎えた先輩たちの作ったカスタム車両だ。開催中止が伝えられてからも一切手を抜くことなく作られた車両はクオリティが高く、後輩たちが参考にした部位が多々あるという。そこも見逃さずにチェックしてほしい。
#01/NATS Low limo[BASE:TOYOTA CENTURY/カスタマイズ科4班]
低く・長く・美しくをコンセプトに、和と洋を組み合わせた絶品ローライダー
国内専売モデルの最上位モデルに君臨するトヨタ・センチュリーを、ローライダーカスタムのベース車に選んだカスタマイズ科4班。「偶然ですが事故車が学校のヤードに置いてありました。自分たちが鈑金すれば元手いらずでカスタム費用に回せますよね。状態もリヤから衝突されているだけで、エンジンは生きてました」とリーダー。
モノは揃った。あとはテーマだが、「班員みんな低いクルマが好き。そのなかで自分(リーダー)は、昔からローライダーカスタムが大好きなんです。メンバーのなかにもローライダーが好きな人がいたので、方向性はすぐに決まりました。あとは和製ローライダー仕様のクラウンを作った先輩たちを超えるにはどうしたらいいのかを考えました」
その“先輩の作ったクラウン”とは、1学年上の生徒が3代目のS50型(1969年式)をベースにしたクラウンで、サビサビだったボディをフルレストアしながらローライダー仕様にカスタムした逸品車だ(センチュリーの隣に展示)。 S50型クラウンをリスペクトしつつ、まずは車格で勝つことを考えて選んだクルマが国内最上級セダン。しかしそれだけだと物足りなく感じ、インパクトでも勝つことを考えてリムジン化をすることに決めた。
「リムジン化は一番苦労した部分でもあります」と話すように、フレームボディならまだしも、センチュリーは一体式のモノコックボディ。重量もハンパないセンチュリーを1.4mも延長させるには当然強度が必要になる。延長だけではなく、外側のドアを含めたパネル類も不自然さをなくさないといけない。そこで延長部分は同型のセンチュリーの廃棄車両から拝借。延長部分の前側には、その廃棄車両のリヤドアを加工装着。リヤドアの前側には同じく廃棄車両のフロントドアを当てがって溶接したことで、違和感のないラインに仕上げている。
パッと見アイアンマン風!? 重厚感のあるカスタムペイント
ボディの次に大変だったのがカスタムペイント。「ゴールドのペイントとピンスト風ラインのカスタムペイントの組み合わせですが、当然経験がなかったので、マスキングを細かく貼っていくのに精神が病みそうでした(笑)」。下側の分割できるパネル類は、机を横に並べて班員で手分けをしてペイント。ゴールドをベースにしたフレークを噴き、その上にパステル色を入れて、ブラウンのキャンディ、最後にフェードを入れるなど、厚みのある色合いを演出している。
メインに使っているレッドカラーは、ホンダCR-Vの純正色プレミアムクリスタルレッド・メタリック。「みんなで検討するなか、キャンディを使おうとする意見も出ましたが、車格が大きすぎて塗装ブースに入らない。キャンディペイントは色味の調整が困難のため、パーツごとにバラしてペイントすることもできない。となると、手直しの効く純正色がベスト。それを条件に調べていたら、キャンディっぽい色味のCR-Vがベスト!となりました」
ルーフガラスはエアウェイブ2台分を大胆移植
ただでさえルーフの広いセンチュリーだが、リムジン化することでより拡充。しかしそれだけだとインパクトに欠けると感じ、ホンダ・エアウェイブのルーフガラス(ホンダでは別名スカイルーフ)を移植。ちなみにこのスカイルーフ、1枚(110×77[cm])だけでも十分な大きさだが、これを2台分移植している。
足まわりはハイドロ&ワイヤーホイールでローライダーを純粋に追求
足まわりはローライダー仕様に欠かせないスキッパー製ハイドロ。「ハイドロは絶対に組みたいと思っていて、付けるなら昨年クラウンを作った先輩たちも使用していたスキッパーがイイと思いました」。ホイールはT’sワイヤーホイール。キメ細かいワイヤーがゴージャスな印象を与える。
開催1週間前より仕上げにかかった内装がグラマラス
内装のテーマはズバリ『豪華なソファーを付ける』。ネットでリムジンの画像を調べてテーブルは弧を描き、棚もそれらに合わせた雰囲気を徹底的に追求している。「テーマと色味を出し合った時点でIRONMANっぽかったんです。キャンディレッドとゴールドの調色をしていくとさらに寄っていったので、班員と“これアイアンマンじゃね?(笑)”ってなりました。まぁカッコよければいいかと落ち着きました」
ボディ延長や足まわり、オールペンやルーフラッピングなど、多岐に渡るカスタムに時間を費やしたため、内装はオートサロン開催の1週間前から仕上げにかかったという。「シートなどの型取りや縫い合わせを内装班のメンバーが頑張ってくれましたが、細かいところまでは手が回らなかった。そこを詰めていくのが大変でした」。今後は3月に行われる卒業旅行までにナンバー取得を目指す!
#02 NATS NGR-concept [BASE:NISSAN LEAF/カスタマイズ科2班 ]
最新EV車両をギャップのあるレトロ系にカスタム
中古とはいえ、100%電気で動く現行車を大胆にカスタムしたカスタマイズ科2班。班を発足させた当初はテーマもバラバラだったそうだが、元々仲の良いメンバーで構成しているため、EVをベースにカスタムするというテーマが決まってからは、一気に話が進んでいったという。
「既存のクルマにモーターを載せる企画は過去にもありました。でも100%電気のクルマをカスタムするのは、NATSにはなかったんです。また、ネットでEV系カスタムを検索しても近未来的なスタイルやスポーティ路線ばかりで、レトロ的な逆振りカスタムは見当たりません。社外のエアロもスポーティ寄りが多いので、一層レトロ感を出したくなりました」とリーダー。
新車として発売されているなかには、ホンダeのようなレトロ系はあるが、まだまだ少ない。そこで、「EV系のヘッドライト=細目というのが近未来的なら、大きくて丸いヘッドライトはギャップがあっていい! 」と、ミニクロスオーバー用の社外品を移植。光軸やバランス感も大事になるため、ミニのラジエターコアサポート一式+フェンダー部分をまとめて移植している。
ボンネットは純正を加工。「本来はフェンダーとバンパーのラインを合わせないといけませんが、先にFRPでバンパーを作ってしまったのと、修正する時間を設けることができずに断念しました。そこは反省点です」。リーフのボディ自体は、全体的に丸みを帯びつつプレスラインで引き締めているため、フロントバンパーまわりを作り込むことでどこかテスラ風ののっぺり感が出ている。「フォグ穴もスムージングして、全体的にコンセプトカーっぽい雰囲気にしました。フロントまわりはテスラをオマージュしています」。
ワイドでグラマラスなフェンダーラインを見事に表現
近未来的なボディ形状に仕上げたNGR-conceptは、“何もない感を出すため”ドアノブすべてをスムージング。「リモコンで開きます。助手席側のリヤドアのみ緊急脱出用に外にワイヤーを仕込んでいます」とのこと。ルーフスポイラーは大型だったウイングを、小振りかつ丸くワンオフしている。 また、足まわりはエアフォースのエアサスキットを装着し、フェンダーまわりは前後ともワンオフで仕上げており、純正から違和感なく数センチ盛り上げたフロントフェンダーとは相反し、リヤは10センチほどワイドに。純正を型取りしてスライドさせながらワイド加工を施されている。
ホイールにはUSで人気のROTIFORM『LAS-R』を履き、細身のスポークデザインだが、それを覆うようにエアロカバーを装着。“何もない感”をホイールでもしっかり出している。また、リフレクターはエリシオン用のリヤバンパーを購入。リフレクターが装着された数センチまわりからくり抜き、バランスや角度を調整して成形。 テールランプもフィアットのアバルト用を移植しているそうだ。
今後の目標は、当然卒業旅行(3月)までにナンバーを取得することだが、「屋根を切ったり、ボディ加工はしておらず、灯火類とエアサスの申請くらいなので大丈夫かなと思っています」と頼もしい。
ちなみに2班が影響を受けたのが、会場で隣に展示された「NATS COSMO VISION(ベースはマツダ・ロードスター)」。現行のND型ロードスターをベースに、“昔のコスモスポーツを今風に落とし込んでみたら……”をカタチにした、スタイリッシュなフェンダーラインが魅力な1台。どことなく、この2班が作ったリーフとの近未来感が似通っている!!
#03 NATS JIMNY kimun kamy [BASE:SUZUKI JIMNY/カスタマイズ科1班 ]
ベース車のシエラはまさかの恩師である先生の愛車
以前から5枚ドアがあれば絶対売れるのにー!! という声はよく耳にするが、市販化までには至っていないスズキ・ジムニー&シエラ。だが、それを憂いての5ドア化ということでは決してない。シエラを所有していたカスタマイズ科の先生が、「私のジムニーを使って5ドア化をしてみないか!?」とベース車選びに難航していた1班に、救いの手を差し伸べられたことから始まった。「それ面白そう! ぜひ! って飛びつきました」と即決した1班メンバーのノリの良さからも、楽しくカスタムしたのだろう感が随所に垣間見える。
大注目すべきはやはりドアの4枚化
ジムニーに優位とされるサイズ感や走破性は多少落ちるかもしれないが、発売されれば間違いなく売れるであろう5枚ドア。今回の施工を簡単に説明すると、追加したリヤのドアは純正のフロントドアを分離してパネルをプレスラインに合わせて加工した。内側の使える部分のみ流用し、足りないパーツはワンオフで組み上げている。
リヤドアの支柱となるBピラーは、何度かやり直しながら鉄板の厚みを増して強度を確保。フロントドアにあるヒンジ(左右分)を1セット購入して、Bピラーに溶接して違和感のない開閉を実現させた。
ドアだけじゃない! 足やアウターロールゲージもアツい
4枚ドアに視線が集まるのは当然として、足やアウターロールケージも見逃せない。足まわりはDスタイルを用いて5リンク化+3インチリフトアップキットを装備。ボディ自体も6インチ上げ、タイヤの厚さも加味すると、「純正から何インチUPしているかわかりませんが、アゲにアゲています」とリーダー。3リンク時よりもかなり柔軟に走行できるのもポイントとなっているそうだ。また、班員みんなでワンオフしたアウターロールケージは、パイプを曲げてイチから作っており、材料はアルミ材を使用している。ブラックにペイントをすることで、より重厚感のある雰囲気に仕立てた。
フロントバンパーは、「3年前に先輩たちの作ったアゲ系のジムニーのものをFRPで型取りして作りました。とくにスチールには拘らず、でも雰囲気はスチールのような重厚感を出すようペイントしています」。ちなみにその重厚感は、ブラックのプラサフを含めて6コートを噴いたそうだ。
ちなみにウインチはCLリンク製。FRPのバンパーではなく、アウターロールケージ&ボディにしっかりと固定され、リヤゲートにはフロントグリルを丈詰めしてスピーカーをインストール。内外装ともに一体感のあるラゲッジも作成。なお、ウインカー部分にはツイーターを入れている。
コクピットはリヤシートを少しだけ前にオフセットさせて、ラゲッジ空間を少し広めに確保。“5枚ドア化をするならラゲッジも広くできる” と、ここまで気を配ることのできるこだわれる余裕は魅力的だ。
7月から製作を開始して、オートサロン当日の朝方5時くらいまで手を尽くしてここまで辿り着いた。ナンバー取得や卒業旅行に行くための完成までを考えると、まだ現時点では7割くらいだという。「卒業旅行も大事ですが、先生のクルマでもあるので、卒業するまでにはきっちり仕上げたいです」とリーダー。ちなみに車両を提供してくれた先生の反応は、「やっとここまできたか! という感じで、無言の圧力がすごいです」と、少しプレッシャーを受けながらここまでこぎ着けた完成度は称賛に値することは間違いなし!