限界域でのスポーツ走行に欠かせない機構「LSD」
いわゆる「LSD(リミテッド・スリップ・デフ)」とはスポーツカーには必須の装備。わざわざ曲がりやすくするためにできたデファレンシャル機構をキャンセルするという、謎の矛(ホコ)と楯(タテ)の装備だが、限界走行にはなくてはならない機構なのだ。
スムースなコーナリングを助けてくれるLSD
なぜスポーツカーにはLSDが必要なのか? それはオープンデフ(通常のデファレンシャルギヤ)だと加速時にイン側タイヤの荷重が抜けやすく、駆動力がイン側タイヤで逃げてしまい加速しなくなってしまうから。
ちなみにカートの場合は、リヤタイヤの左右が1本のシャフトで繋がっているので駆動力は抜けない。だが、内輪差が吸収できないので曲がりにくい。勢いでイン側タイヤを浮かせて曲がるしかない。
そこでその間を取ろうというのがLSDだ。左右タイヤに回転差が起きると、それを抑えようという力が働くが、完全にロックするわけではないのでタイトターンも違和感なくできる。
LSDの方式にはいくつか種類があるが、主流は2種類。メーカー純正系に使われる「トルセン式」や「ビスカス式」と呼ばれるものと、金属ディスクがこすり合う「機械式」だ。トルセン式やビスカス式はオイルの抵抗などを使って左右の回転差を吸収させる。
機械式はスポーツカーの定番で、チューニングで装着するのもほぼ機械式だ。メカニズム的には右側タイヤから伸ばした棒の先に金属ディスクをつけ、左側タイヤからも同じように伸ばした棒の先に金属ディスクをつけ、それをクラッチディスクのように擦り合わせて左右のタイヤの回転差を少なくする。
このディスク同士に回転差が生まれたとき、それらをこすりつける力を発生させる「カム角」、あらかじめスプリングでこすりつけておく「イニシャルトルク」、こすれあったときの摩擦力の強さを「ロック率」と言い、この3要素でLSDの特性をセッティングしていくのだ。
LSDチューンの定番「シム増し」は現代ではほぼ不要
1980年代から言われる「デフはシム増しでバッキバキだべぇ!」というのは、イニシャルトルクを上げてもっといつでも効かせようということである。そんなに四六時中効いても不快なだけなのだが、当時はLSDが入っていることをアピールしたかったのだろう。
コンクリートの駐車場で「シュコシュコシュコシュコ」と音を発しつつ曲がらないとダメだと豪語する先輩がいたものだが、これはロック率を上げて、ほぼデフロック状態じゃなきゃLSD入っているかわからないだろ! と言いたかったのではないかと推測される。
どちらも当時のタイヤの性能ではアリだったかもしれないが、現代のタイヤでは不要。むしろ邪魔である。タイヤのグリップ力はここ20年で飛躍的に高まり、想像を絶するほどである。それだけグリップ力があるので、イン側タイヤが加速時に空転しないギリギリの効きの方が、コーナリング時のブレーキング効果も少ないし、タイヤへの負担も少ない。LSD本体への負荷も減る。
LSD用のオイルを使ってバキバキ音のないセットを
ちなみにこの作動時の「バキバキ音」は「チャタリング」と言われる。金属プレート同士がバキッとズレ、またバキッとズレるときに鳴る音であるが、現代ではほぼ鳴らない。いまだに「LSD入れたいんですけど、バキバキ音が家族に不快感を与えるかも……」と心配する人もいるが、今どきバキバキ音なんてしない。していたらなにか間違っている。
LSDメーカーではそれぞれ自社で専用オイルをリリースしていて、これがまたそのメーカーのLSDに入れると見事にチャタリング音がしないようになっている。そのほかのオイルメーカーのデフ用オイルでも、いまどきバキバキ鳴るようなことはまずない。もし、バキバキ鳴っているようならセッティングか、オイルか、なにかが大幅に間違っている。お店で診てもらうことをおすすめする。
ちなみにLSD非対応のギヤオイルを入れると強烈にバキバキ鳴ることがある。サーキット走行などでデフオイルの温度が上がりすぎて、大きなダメージを受けたときにもバキバキとなることがある。どちらも速やかに適切なオイルに交換してもらいたい。過度にバキバキと鳴ってプレートを摩耗させていくと、イニシャルトルクが落ちてきてしまう。長くLSDを楽しむためにも、バキバキ音のしない正しいセットで使ってほしい。