小粒だけどピリリと辛いコンパクトSUVがラッシュ&ビーゴ
いま4WD&SUVが空前の売れ行きを続けている。カーメーカーはこぞってSUVをリリースし、またランドクルーザー300やスズキ・ジムニーのように、オーダーしても納車まで長い期間、待たされるモデルもある。ライフスタイルやレジャー志向の変化、大げさに言えば地球環境の変動によって、4WD&SUVに対するニーズが高まっているのかもしれない。
FFベースが主流のなかFRベースで登場
ともあれ、そんな今だからこそ注目してみたい4WDモデルが過去にあった。いわば“時代を先取りしすぎたクルマだ。それが「トヨタ・ラッシュ」とその兄弟車の「ダイハツ・ビーゴ」だ。トヨタとダイハツの兄弟SUVというと、現行型ではライズ&ロッキーの間柄を思い浮かべるが、そうラッシュ&ビーゴはそれらの先代モデルと思ってもらえばいいだろう。ではいったい、ラッシュ&ビーゴは何故、時代を先取りしていたと言えるのか? それは、そのユニークなプロフィールにある。
デビューは2006年1月。当時の4WD&SUVといえば、ディーゼル規制法の影響もあって、本格的なオフロード車の販売台数が低迷。代わってガソリンエンジンを積んだクロスカントリー風4WDが、次々に登場するといった状況だった。ラッシュ&ビーゴも、そんなクロスカントリー風4WD(口の悪い人は「なんちゃって四駆」などと呼んだが)として登場した。のちにこの「なんちゃって四駆」はSUVと呼ばれ洗練されていくのだが、ラッシュ&ビーゴはひと味違っていた。
多くのSUVが横置きエンジンのFF、あるいはFFベースのスタンバイ式4WDを採用するなか、なんと縦置きエンジンのFR、あるいはFRベースのフルタイム4WDを採用していたのだ。
副変速機レスだがしっかりセンターデフを搭載
ちなみにこの駆動方式はラッシュ&ビーゴの先代モデル、1997年に発表した「ダイハツ・テリオス」(トヨタからは兄弟車として「キャミ」の名で1999年発売)以来、受け継がれたもの。テリオスはのちに発表された軽自動車SUVの「テリオスキッド」をベースに開発され(発売はテリオスが先)、このテリオスキッドこそ、ディーゼル規制法後、本格オフローダーとして注目を集めた「ジムニー」をターゲットに開発されたものだった。アドバンテージは軽自動車のSUVなのに5ドアを採用したこと。
ただ、このラッシュ&ビーゴにも採用された4WDシステムには、本格オフロード4WDのような副変速機、いわゆるローレンジが省かれていた。しかし、日本でこの手の4WD車に乗るユーザーにローレンジって本当に必要だったのか? という疑問はさておき、ラッシュ&ビーゴのフルタイム4WDはセンターデフロックが備えられ、林道や川原、そして雪道でさえ安心の走りを提供してくれた。
おまけに当初からオプションでVSC(ビークル・スタビリティ・コントロール)&TRC(トラクション・コントロール)という、駆動力を電子制御するデバイスも用意されていたので(のちに全車標準装備に)、場合によっては当時のジムニー以上の安定した走破性を見せてくれた。居並ぶSUVたちのなかにあっても、走りそのものを楽しめるなかなか硬派な存在だったのである。
5ドアのユーティリティ性の高さも評価したいポイントだった!
残念ながらラッシュ&ビーゴは2016年3月に販売が終了。後継モデルはFFベースのSUVであるライズ&ロッキーとなった。しかし考えれば考えるほど、ラッシュ&ビーゴはイカした四駆だった! たとえばまだ現役モデルなら、ジムニーシエラの最大のライバルになったのではないだろうか? 1.5Lガソリンエンジン、安定感の高い4WDの走り、5ナンバーサイズのボディパッケージは両者共通。もちろん、本格的なオフロード走行では前後リジッドサス+副変速機付きのシエラに譲るところだし、カスタムパーツの多さでも適わないかもしれない。
しかし、なんと言っても5ドアのユーティリティ性能は大きなアドバンテージ。実際、オフロード好きの友人に、老親や孫の送り迎えをしなければならないからとシエラよりラッシュを選んだ者もいる。ローレンジなんて使わないだろうし、フロントが独立式サスペンションだから普段の乗り味もいいよと、私が薦めたこともあるのだが。
岩場や泥沼といったオフロードをガンガン攻めるわけでもない、大金をかけてカスタムを楽しむわけでもない。ならばラッシュ&ビーゴ、4WDライフやアウトドアライフの、頼もしい相棒になってくれると思うのだが……。