ボンネットに輝くフィギュア「スピリット・オブ・エクスタシー」
ロールス・ロイスは現在、同社初の量産EV「スペクター」を開発中だ。モーターの性能やバッテリーの容量と、車両重量および燃費性能のバランスがシビアに求められるのがEVの宿命であり、スペクターも空力性能を徹底的に追求。初期プロトタイプですでに、Cd値わずか0.26を記録している。
それにともない、ロールス・ロイス車のボンネットで長年にわたり輝き続けてきたフィギュア「スピリット・オブ・エクスタシー」、別名「フライング・レディ」も生まれ変わることとなった。
実在の女性をモデルに生まれ今年で111歳
この「スピリット・オブ・エクスタシー」が生まれたのは20世紀初頭。イギリスの貴族であり自動車雑誌「The Car Illustrated」の編集も手がけていたジョン・ダグラス・スコット・モンタギューが、自分の1909年式ロールス・ロイス・シルバーゴースト用のマスコットを作ろうと、友人の彫刻家チャールズ・ロビンソン・サイクスに依頼したのがきっかけだ。モデルになったのは、モンタギューの秘書であるとともに秘密の恋人でもあったエレノア・ソーントンで、この彫刻作品は「ウィスパー」と名づけられた。
ちょうど1910年頃は、モンタギュー氏のようにロールス・ロイスのオーナーがそれぞれ好みのマスコットを付けるのが流行しており、それを懸念したロールス・ロイス社は前出の彫刻家サイクス氏に、同社のブランドを象徴するマスコットの制作を依頼。サイクスは試行錯誤の末、結局、お気に入りの作品だった「ウィスパー」のイメージを元にした「スピリット・オブ・エクスタシー(恍惚の精神)」を製作したのだった。
こうしてスピリット・オブ・エクスタシーは1911年2月6日にロールス・ロイスにの知的財産となり、ちょうどつい先日に111歳の誕生日を迎えている。
「翼」と誤解されているのは風に舞う「ローブ」
100年以上にわたる歴史のなかで、スピリット・オブ・エクスタシーは基本的に、両足を揃えて膝をまっすぐ伸ばし、上半身を前方に傾けたスタイルだった。なお、しばしば「翼」と間違われる部分は、風で後ろに舞う「ローブ」だ。
サイズや素材、形状はさまざまな変更を経てきて、一時は膝をついた姿のこともあった。最初期には高さ17.5cmもあったスピリット・オブ・エクスタシーだが、今回の最新バージョンでは先代の100.01mmよりもコンパクトになり、全高わずか82.73mm。初代の半分以下になっている。
「半歩前」に踏み出した空力デザインに
エアロダイナミクスのための進化は、単なる小型化にとどまらない。右足だけ少し前に出し、膝を少し曲げて上半身を傾けた姿勢になり、前方=未来を見すえる「集中力」と、そこへさらに突き進んでいこうとするエネルギーの「溜め」を表現している。
ロールス・ロイス本社のコンピューター・モデリング専門家によって、ローブの細かなひだは抽象化されて流線的になり、髪型や服装についてはグッドウッドのスタイリストが監修。20世紀初頭に生み出された古典的なフィギュアに、21世紀の現代的なオーラをまとわせて換骨奪胎したというわけだ。
新たなスピリット・オブ・エクスタシーは、来たるべきEV「スペクター」はもちろんのこと、今後のすべてのロールス・ロイス車に使われていく予定だ。