カーボンファイバーの成型技術と空力理論に特化した童夢
ジオット・キャスピタが開発された経緯を紹介しましたが、それでは続いてジオット・キャスピタの、メカニズム概要を紹介することにしましょう。大排気量マルチシリンダーのハイパフォーマンスエンジンをミッドシップに搭載し、ガルウィングドアを持つ流麗なボディを架装しています。
これがスーパーカー、あるいはスーパースポーツカーの概念とするなら、ジオット・キャスピタは紛れもないスーパースポーツカーです。ただし、そのキモとなっているのはカーボンファイバーで成形されたモノコックと、風洞で徹底的に空力が追求されたボディデザインです。
1980年に童夢-零RL・フォードでル・マンに初挑戦した童夢では、毎年のようにマシンを進化させながら挑戦を続けていきました。その上でボディ(というかモノコック)の軽量高剛性化を追求して、1988年のル・マン用にトヨタから設計開発を依頼されたトヨタ88C-Vでカーボンコンポジット(※)で成形したモノコックを採用。
※炭素繊維強化炭素複合御素材。グラスファイバー=FRPのガラス繊維を炭素繊維に換え、母材として炭素で強化した超軽量高剛性な素材のこと。
また空力開発でもレース活動が技術開発には欠かせませんでした。かつては空気抵抗の低減が重要視されていましたが、次第にダウンフォースの重要性がわかってくると、その研究設備として風洞が必要になってきました。童夢では、そんな風洞にいち早く注目し、研究を重ねてムービングベルト付き風洞を自社で造り上げてきました。そう、童夢の技術はレースによって磨かれてきたのです。
2号機にはV10エンジンが搭載された
それでは続いて、具体的にジオット・キャスピタのメカニズムを紹介していきましょう。先にも触れたようにカーボンコンポジットのフレームに1号車はスバルーモトーリ・モデルニ製の180度V型12気筒、2号車はジャッド製の72度V型10気筒と、排気量は3.5Lで共通ながら、形式的にはまったく異なるエンジンを搭載しています。
ちなみにスバル-MMは450ps以上、ジャッドは575psと公称され、重量は1号車が1100kg、2号機が1240kgと発表されていました。当初からエンジンが換装されることを予期していた訳ではないのでしょうが、モノコックはフルモノコックでなく、レーシングカーによくみられる3/4モノコック。エンジンのマウントにはサブフレームが用いられる方式とされていたので、モノコック自体は設計変更することなくサブフレームの設計を変更するだけで対処できています。
この辺りはレーシングカーの開発に長けた童夢ならでは、といったところでしょうか。サスペンションは前後ともにダブルウィッシュボーン・タイプでプッシュロッドとベルクランクを使ったインボード式。プッシュロッドにはハイトアジャスター装置が組み込まれ、サーキット走行時と一般路走行時で車高を変えることができるよう設計されていました。
ブレーキは前後ともにベンチレーテッド式ディスクが採用され、高いパフォーマンスに対処していました。ラジエターはノーズ内で水平にマウントされ、2個の電動ファンでノーズから取り入れられた冷却気を吸い出し、ボンネット後端から排出するように設計されていました。
コクピットは左ハンドルで、ドライバーの正面にはSTACK製の速度計と回転計が備わるコンサバなデザイン。童夢-零が随分とエキスメンタルな風情だったのに比べると、素っ気ないほどにシンプルに仕上がっていました。
それはエクステリアデザインについても同様で、車高も980mmに抑えられ、ナイフで削ったような“薄さ”をアピールしていた童夢-零に対して、ジオット・キャスピタは抑揚がつけられて少しだけマッシブな“ナイスバディ”に纏められていました。
好き嫌いは分かれるでしょうが、コンサバなスーパースポーツに相応しいデザインに仕上がっていて、プロジェクトのとん挫は残念でなりません。もっともジオット・キャスピタが市販されたとしても、オーナーにはなれなかったろうとの自覚はありますが……。