慎太郎さんがもっとも愛したクルマ「マツダ・コスモスポーツ」
世界初の2ローター・ロータリーエンジン搭載車としてクルマ好きを魅了した「コスモスポーツ」は、1967~1972年までの間に1176台が生産された。「NSUヴァンケルスパイダー」というロータリーエンジン搭載車の先達があったため、「2ローター・ロータリーエンジン搭載車としては世界初」という注釈が付いてまわるが、コスモスポーツはマツダの技術力の高さを全世界に証明したエポックメイキングなクルマである。
小型、軽量でありながら高出力という、往時における理想的なパワーユニットをいち早く搭載した点がコスモスポーツの特徴で、1967年に登場した前期型(L10A)で110ps、1968年にデビューした後期型(L10B)で128psという最高出力を誇った。石原慎太郎さんが愛用していたのは後期型だったようで、息子のひとりが譲り受けたが、放置しているうちにボロボロになってしまったらしい。しかし、後年レストアされ、2019年に開催された車両展示イベントでその雄姿を披露していたようだ。
2ローター・ロータリーエンジンがコスモスポーツの価値を高めていることは確かだが、時を経ても色褪せない未来的かつ美しいプロポーション、複雑な曲面を採用したモノコックボディ。さらに、2リッタークラスのレシプロ・エンジン・スポーツカーに匹敵する走行性能をサポートしたダブルウイッシュボーン+コイル、ド・ディオン式縦置半楕円リーフの前後サスペンションも、同車を語る際に忘れることができないポイントである。
早々に実施されたマイナーチェンジによって後期型へと進化したコスモスポーツは、ホイールベースを150mm延長し、フロントグリルを拡大。動力性能が向上したことに伴い、トランスミッションが4速から5速となり、より一層スポーツカーらしい走りを披露できるようになった。また、後期型に進化したことに伴ないブレーキにサーボが付き、クーラーの装着も可能となったコスモスポーツは、「サバンナ」をはじめとする次世代ロータリーエンジン搭載車のデビュー後も月平均20台ペースで生産されたそうだ。
類い稀なるドライビングプレジャーでオーナーになることを許された者を心底魅了したコスモスポーツだが、新車発売当時の価格が1960年代後半の時点で148万円だったこともあり、多くの人々にとってこの先進的なクルマは現実的なものではなかった。当時の大卒者初任給が2万6000円前後だったといわれているので、同時期に238万円で発売された「トヨタ2000GT」も含め、いかに高価なスポーツカーであったのかを窺い知れるだろう。そう、石原慎太郎さんのような有名人しか買えなかったのだ。
現在もコスモスポーツは高価な旧車のひとつとして取り引きされているが、いま見ても未来的だと思えるエクステリアデザインは最高にカッコイイので、どこかで遭遇したら、そのスタイルのよさや軽快な走りを堪能してみるといいだろう。