旧車との付き合いは「介護」! お年寄りと恋愛する覚悟が必要
昨今のブームで旧車がもてはやされている。今のクルマにはない自由度の高い個性的なデザインに惚れたとか、若いころに憧れたクルマだったとか、アニメや映画で見て憧れたなど購入したいと思う理由はさまざざまだが、安易に手を出すと必ず後悔する。なぜなら、旧車との付き合いの基本は「介護」。「お年寄りと恋愛する」ような覚悟がないなら手を出すべきではない。
パッと見はキレイでも摩耗や経年劣化は確実に進行している
人間と違ってパッと見は若々しさを保つことは可能だが、中身は摩耗していたり、経年劣化は確実に進んでおり、ほとんどのクルマは疲労が蓄積している(とくに厄介なのは見えない電装系)。そりゃあ、そうだろう。生まれてから30年、40年と経過すれば人間でも痛みが出てくるのと同じだ。
ただし、人間と違ってクルマは入念に整備すればある程度機能を回復できる。しかしながら、一部の人気車を除けば数十年前の部品を探すのは至難の業で、旧車ブームのため、どれも高く、思った以上にお金(治療費)がかかる。
憧れたアイドル、芸能人なので念入りなメンテナンスで、見た目は昔と変わらず美しいかもしれないが、加齢は隠しきれないもの。すっぴんは年齢相応だったり、付き合ったら思った以上にわがままで、しかも病気がちだったとしても、「アバタもエクボ」とおおらかな気持ちで愛し続けるような度量がいる。旧車との付き合いもまさにそれで、青春時代の思い出や憧れを汚したくないのであれば無理に現実を知る必要はないのだ。
それでも旧車と添い遂げたい。買ったあとも絶対に後悔しないという強者に向けて、今回旧車を買うためのポイントを整理してみた。
実車を見て舞い上がらず複数台を確認して見る目を養うべき
まずは優先すべきは「買うのを焦らず」欲しいクルマを何台か見比べることだ(最低5台程度)。基本はクルマの程度と値段は比例するのだが、昨今の旧車人気に便乗して、外観だけ取り合えずキレイに仕立て高値で販売する悪徳業者もあるので値段はあまりあてにならない。とくに実車を見ることなく買うのは絶対NGだ。
超絶レアなクルマであれば、市場にめったに出てこないので即断しなくてはならないが、人気車種ならば中古車情報誌などを見れば何台か見つかるもの(それでも旧車人気でタマは少ないが)。旧車は買ってから直すのは思った以上に大変なので、とにかくまずは見る目を養う必要がある。
中古車は生き物であり、長い時間が経過していれば、オーナーのメンテナンス具合や置かれてきた環境などで、コンディションは1台1台異なる。それが何台も見ていくうちにクルマの違い、良し悪しなどがわかってくるはず。もちろん、「あのクルマが良かった」と思って、買いに戻ったら売れていたこともあるかもしれないが、中古車の出会いは一期一会、そのクルマとは縁がなかったと割り切る余裕も必要だ。
車両確認は曇りか夕方がベスト! 開けられる部分はすべて開けてチェックが鉄則
肝心のチェックポイントだが、まず車両のチェックは晴天や昼の時間帯は避けよう。日の光が強いとボディの凹みや歪みがわかりづらい。できれば、曇りの日、それが無理なら日の光が弱まった夕方がいい。
中古車店に到着し、クルマと対面したらまずは遠くからクルマ全体のスタイルを眺め、各パネルの色の違いやクリアランスが整っているかを確認する。また、抽象的で申し訳ないが、全体の佇まいがしっかりしていると感じられるかも重要。何台か見ていれば、ダメなものはなんとなく違和感(バランスの悪さ、塗装の仕上がりの良し悪しなど)がある。
ボディのサビも気になるポイント。数十年も前のクルマだからサビがひとつもないということはありえないが、ボンネット/ドア/トランクなど開けられるところはすべて開けて確認。さらにはお店のスタッフに断りを入れてフロア、トランクなどのカーペットの下まで見ておこう。旧車の場合は思わぬところにサビが広がっていたり、フロアの下が濡れていたり、純正工具などパーツが欠品していることはよくある。
サビはパーツ交換するのが難しい部分は抜かりなく見ておく
袋小路になっているドア下やトランク左右もサビやすいポイント。純正の防錆効果は失われており、水抜き穴は長年のちりやほこりで詰まり、錆の温床になっていることも多い。さらに下まわり、水が跳ね上がり貯まる前後フェンダーの後方部分も必ず見ておこう。
多少のサビは仕方ないが、フロア形状の違和感、左右の形状が異なっている場合は要注意。サビて穴が空いている部分を簡易的に塞いでパテなどでごまかしているクルマをこれまで何度も見てきた。ショップスタッフには嫌がられるかもしれないが、小型の磁石を持っていき、各パネルに当ててその貼り付き具合で、鉄板かパテかを判断するくらい念入りでいい。
エンジンルームは初心者では事故歴などは判別しにくいが、後付け感がなく、なるべくスッキリしているもので、バルクヘッドやフレームなど交換が難しい部分にサビや修正痕がないかのチェックは抜かりなく。そのほかはエンジン始動後の異臭。オイル臭、ガソリン臭はとくに注意が必要。こちらも何台も同じクルマを見れば違いも把握できるようになる。
可能なら試乗し最低でもエンジン始動もしたい
内装は早めに純正部品が製造廃止になる部分なのでしっかり現状を把握。とくに旧車は欠品していると手に入らないことがほとんどなので、オリジナルにこだわるならば事前に資料(旧車雑誌などで情報を集めたり、ネット上に当時のカタログがアップしていたり、調べる手段はある)を用意し、それを片手に見比べる。
あとは、「ダッシュボードの割れは嫌だけど、シートは社外でもいい」などどこまでなら妥協できるかも決めておくべきだ。また、クーラー、ヒーター、オーディオ、メーター類がちゃんと動くかも見ておこう。
ナンバーが付いていて車検が残っているなら可能な限り試乗をお願いする。敷地内だけでも動かすと動かさないでは大違い。各部の振動、異音、ミッションの入り具合などは確認できる。自信がなければ、旧車やクルマに詳しい人に付き添ってもらい、運転を任せて助手席で体感するのもありだ。
ナンバーがない場合でもエンジンはかけさせてもらおう。チェックは始動性良し悪し、アイドリングが安定しているか、白煙は出ていないか、暖気後にじんわりと回転を上げて引っ掛かりがないか、などを見ておく。なお試乗もエンジン始動も断るショップは信頼に欠けると判断し、早々に引き上げたほうがいい。
わからないことや疑問に思ったことは必ず質問
また、すでに主治医を確保できているなら別だが、気持ちとして買ったお店で長く面倒を見てほしいもの。旧車は買うときよりも買ったあとの故障にどう対応してくれるのかも重要。修理やメンテはどこでやってくれるのか? 自社工場があるなら見せてもらうなど気になる点は可能な限り質問。このお店で長い付き合いができるか、というのも購入の判断基準とすべきだ。
いいお店は「旧車こんなもんですよ」という曖昧な返事はしないし、(ぶっきっらぼうかもしれないが)質問にも答えてくれるはず。ただ、最後は人対人の付き合いなので相性はある。長い付き合いになることを考えた場合、気持ちよく通えるかも大事で、その部分も妥協はしないほうがいい。
マーケットに圧倒的に数が少なく、適当に直して売り抜ける業者も少なくないので、良質な旧車選びは初心者とってかなりハードルは高い。ただ、個体を見れば見るほどそのクルマに対する見識や理解は深まるので、わかる範囲で隅々まで確認することにデメリットはない。目の前の1台に飛びつかず、時間をかけて希望の1台にたどり着いてほしい。