世界的な旧車/ヤングタイマーの相場高騰は25年ルールが原因か⁉
最近少し落ち着きをみせてはいるものの、ここ数年、世界規模で旧車やヤングタイマー(1980~90年代登場車両)の中古車相場が異常に高騰している。その原因として真っ先に挙げられているのが、アメリカのクラシックカー登録制度である通称「25年ルール」だ。
2014年ごろから俄に25年ルールが話題にのぼり始める
内容を簡単に話すと、製造から25年が経過した輸入車はアメリカではクラシックカーとして認められ、本来輸入する際に課される排ガステストや衝突安全試験(2000年ごろにこれら試験を行い、GT-Rをアメリカに輸入した強者も存在した)が免除されるというものだ。年間走行距離は4000kmに限定されるが、日常の足として使うならともかく、コレクションとして考えれば大きな障害ではない。
このルールは1980年代末にアメリカ連邦法で定められていたが、日本で注目を集めたのは2014年。日本のドメスティックカーの代表作であるR32型スカイラインGT-Rがこのルールに基づき、アメリカに輸入できるようになり、相場が急騰したことをマスコミが取り上げたことで話題に。
それ以降、日本のみで販売されていた人気スポーツカーがルールに合致するたびに取り上げられ、日本のクルマ好きに「25年ルール」はすっかり定着した。さて、昨今の旧車の高騰は本当にこのルールが原因なのか。それは半分正解で、半分間違い。
オーストラリアやイギリス、ドバイに香港など世界規模で人気
確かに25年ルールに合致したスポーツカーはドメステックカーを中心にアメリカに渡っているが、じつはほかの国にも以前から輸出されている。筆頭に挙げられるのは右ハンドルの国々で、オーストラリアやニュージーランドはアメリカの25年ルールが日本で話題に上がる前に、多くの日本のスポーツカーが輸出されていた(関税は高いが、賃金も日本より圧倒的に高い)。また、イギリスやアイルランドなどでも数は多くはないが日本のスポーツカーは人気だ。
さらに、投機目的としてドバイの富豪たちも日本のスポーツカーを好み、最近では香港やシンガポールの金持ちたちもこの旧車高騰に大きな影響を及ぼしている。また、アメリカの隣国カナダでは25年ルール同様の15年ルールが存在し、R32型スカイラインGT-Rがアメリカの25年ルールに合致する前は、カナダからアメリカへ持ち込まれたという話もある。これは、25年ルール以外にアメリカでは連邦運輸局の「ショー&ディスプレイ」という方法で持ち込むことも可能だったため。また、車体ではないが日本を代表するRB26や2JZエンジンは、メキシコからの引き合いも多い。
高騰ゆえに潰されず純正部品の供給やリプロパーツの開発も盛んに
つまり、現在の世界的な高騰はアメリカの25年ルールだけが原因ではなく、世界中のコレクター、クルマ好きから引き合いがあるため起こっているのだ。しかも、円安になるとその引き合いはさらに激しくなる。今、海外に日本のスポーツカーが流出し、本来ならば年式とともに相場が下落するはずなのに高騰したことで、気軽に手に入れることが難しくなっているのは確かだ。また、日本の宝であるスポーツカーが国内からなくなることを快く思わない人もいると思うが、この世界的な高騰はメリットもいくつかある。
海外での評価、世界的な認知度向上はもちろんだが、一番は相場が高騰しているゆえに、本来は廃車されるはずの個体もレストアされ社会復帰。潰される可能性が減り、生き残る可能性があることだ。
レストアするために必要な純正パーツも頻繁に部品が動けば、メーカーも製造廃止する訳にもいかず、人気車種となれば仮に純正部品が廃止となっても、アフターパーツメーカーがリプロパーツを開発する可能性は高い。実際にハコスカ、ケンメリ、S30フェアレディZなどは復刻部品が出揃っており、レストアやリフレッシュの体制は整っている。
将来は輸出されたクルマを買い戻すこともありえるかも⁉
第2世代と呼ばれるR32、R33、R34のスカイラインGT-Rのパーツもアメリカやオーストラリアで日本には存在しないパーツが数多く誕生。それらが輸入され、レストアやチューニングに活用されている。マイナスに捉えられがちな日の丸スポーツカーの流失だが、すでにこのようなメリットも生まれている。
また、価格が高騰しているので、失礼な言い方にはなるが懐に余裕があるオーナーにしか手に入れることが難しく、こうした特殊なクルマを手に入れるのは相当のクルマ好きか、コレクターなので大切に保管、メンテナンスされることが予想される。
気候の面でもアメリカの西海岸などは日本よりも湿気がなく、クルマを保管するには適している。今後の相場は予測できないが、相場がある程度下がれば、遠くない将来にコンディションのいい個体を求めて、輸出されたクルマを日本に買い戻すという現象が起こらないとは限らない。
10年前のような底値になることはないだろうが、タマ数は極端に減らないので、本気で手に入れたいのならばチャンスは残されている。ただし、旧車を維持するには財力と根気は必要。覚悟が必要なのは今後も変わらないのだ。