想像以上に奥が深い旧車の運転術
相変わらず旧車が人気だ。東京オートサロン2022の会場でも数多くの旧車と出会うことができた。ナニゴトも流行ると、さほど興味がないビギナーが参入してきたり、マネーゲームの対象となったりするのが世の常。旧車も扱い方を知らない人が購入したり、投機目的で買われてしまったりしている。
1970年代後半に巻き起こったスーパーカーブーム全盛時に、小・中学生だったオジサン世代はよく憶えていると思うが、バブル景気のときにフェラーリ・テスタロッサが“跳ね馬に対するリスペクトがまったくない人々”にラフに扱われ、ひどくコンディションを落としてしまったことがあった。
流行っている旧車の世界も現在似たような状況となっており、ビギナーが昭和のクルマを現代車のように普通に扱い、すぐさま壊してしまったり、手放してしまうケースが多々確認されている。フォルクスワーゲンのビートルやカルマンギア、ワーゲンバスなどは恐ろしく頑丈なので、現代車のように普通に扱っても大丈夫だろう。だが、例えば同じドイツ車でもナローポルシェはクラッチのつながり方が独特で、慎重にミートすることが求められる。スムースに発進するためには、繊細なテクニックが必要となるのだ。
納車から自宅に辿り着く前にクラッチを使い果たした例も
往時に、ある人がショップの店頭で納車されたナローポルシェのクラッチミートをうまくできず、家に着く前にクラッチを使い果たしたという都市伝説並みの仰天エピソードがある。やはり、旧車ビギナーがナローポルシェを現代車のように普通に扱うのは控えたほうがいいだろう。
質実剛健なことで知られるドイツの雄がそんな感じなので、ここぞ! というときにかぎって立往生し、人生をドラマチックにしてくれることで有名なイタリア車は、より扱うのが難しい。筆者が乗っている1974年式のアルファロメオGT1600ジュニアは、発進する際にニュートラル→シフトレバーを2速のシンクロに軽く当てる→1速に入れるという順番で毎回ギヤを入れている。
赤信号で停止する際は2速で止まり、ニュートラルで待機。青信号になる直前に素早くクラッチを踏み、既述したようにニュートラル→シフトレバーを2速のシンクロに軽く当てる→1速に入れるという作業を1~2秒で行い、発進しているわけである。
筆者の愛機と同世代のアルファロメオは、必ずこの発進作法が必要なので、くれぐれも、いきなり1速に入れるようなことはしないでいただきたい。
今のクルマには必要がないダブルクラッチという操作も必要
ちなみに、往年のチンクエチェントは、ノンシンクロのマニュアルトランスミッションなので、停止時に1速に入れるときだけでなく、2、3、4速にシフトチェンジする際もダブルクラッチ(クラッチペダルを踏んでギヤをニュートラルにし、アクセルを踏んでエンジンの回転を上げてから、ふたたびクラッチペダルを踏んでギヤを入れる動作)を駆使し、うまく乗りこなしてほしい。
また、わがアルファロメオGT1600ジュニアはペダルの配置も独特で、アクセルが吊り下げ式で、ブレーキとクラッチがオルガン式ペダルだ。オルガン式のブレーキペダルとクラッチペダルは、踏み慣れないとクラッチを踏む左足の踵の置き方(動かし方)が難しく、右足がアクセルとブレーキの間を行き来する際に少し気持ち悪い思いをするので、ビギナーは注意してほしい。
そして、この話はおもに1980年までに生産されたクルマのことだと思っていただきたいが、旧車はパワーステアリングを装備していないので、ハンドルが重い。小径だと回せないのでハンドルが大径なのだ。
ウッドステアリングのクルマを運転する際に革の手袋をハメている人をたまに見かけるが、あれはファッションというよりも汗でハンドルを握る手が滑るのを防止しているのだといえる。革の手袋をカッコつけるためではなく、安全性を向上させるためにハメている人も存在するということなので、街で見かけてもイタいヤツだと思わないでいただきたい。