バネ下とはクルマをリフトで上げたときに垂れ下がってくる部分のこと
今シーズン(2022年)からF1のレギュレーションが変わり、タイヤとホイールが従来の13インチから18インチにサイズアップする。ホイールが大きくなった結果、間違いなくバネ下重量が重くなると言われているが、このバネ下重量とは何のことなのか。
「バネ下」は、シンプルにいえばクルマをリフトで上げたときに垂れ下がってくる部分のこと。バネ下の“バネ”とは要するにサスペンションのスプリングのことだと思えばいい。パーツごとに見ていくと、タイヤ、ホイール、ハブ、ブレーキ、サスペンションアームなどの総重量が「バネ下重量」に含まれる。
この「バネ下」と対になっているのが『バネ上』だ。『バネ上』は車体全体から「バネ下」を除いた、ボディの大半部分のことをいう。この『バネ上』と「バネ下」の関係はハンドリングとタイヤの接地性、そして乗り心地に大きく影響する。
バネ下重量が軽くなると路面追従性がよくなる
簡単にいえば、バネ上がどっしりと重く安定してバネ下が軽く、そのバネ下だけが路面の凹凸に合わせて、まさにフットワークよく動いてくれれば、乗り心地に優れて接地性も良くなるというわけだ。したがって、バネ上とバネ下の重量比が大きくなればなるほど、走りは良くなると考えていい。
だとしたら、バネ下に対しバネ上を重くしても、乗り心地や接地性がよくなるともいえるわけだが、走る、止まる、曲がるのすべてに慣性が働くクルマの場合、車体全体の重量は1gだって軽い方が望ましい。ということは、バネ上とバネ下の重量比を大きくするために、バネ上の重量を増やすという選択肢はあり得ず、性能向上、乗り心地向上のためには、バネ下重量の軽量化の一択になる。
また、バネ下重量は車体全体の5%ぐらいしかないので、バネ上とバネ下の重量比を相対的に大きくするためには、バネ上の重量増よりもバネ下の軽量化の方がはるかに効率がいいことがわかる。単純に考えて、バネ上を100kg増量するより、タイヤ&ホイールで1本あたり1kg、4本で4kg軽量化した方が、重量比を大きくすることができるからだ。
よく「バネ下重量1kgの軽量化はバネ上10kgに相当する」といわれるのはこのためだが、この「10倍」という数字には学術的な根拠はなく、ひとつのイメージとして捉えておいた方がいい。
それはともかく、バネ下重量が軽くなると路面追従性が良くなり、ハンドリングや乗り心地、燃費などが間違いなく良くなる。軽量ホイールやアルミ製サスアーム、セラミックカーボンブレーキなどへの交換による効果は確実にある。
ただし、軽さだけを優先したアルミホイールだと、曲がりやすかったりクラックが入りやすかったりこともあるので、軽さと同時に剛性と強度、そして真円度や均一度、ハブ径の一致(ハブリングの有無)なども合わせて重要。純正のアルミホイールは少々重いかもしれないが、真円度やハブの問題、耐久性などは信頼していいものが多い。
インチアップをするとバネ下が重くなる
一方、インチアップをするとバネ下重量は確実に重くなると考えていい。F1でも18インチタイヤが導入されることに対して、「グリップ面でいいことではない。ホイールが大きくなるとグリップが低下するし、重量が大幅に増える。だからパフォーマンス面でいいことはないと考えられる」と、メルセデスAMGやフェラーリチームのテクニカルディレクターがコメントしている。
にもかかわらず、なぜF1が18インチ化するのだろうか? その理由は、まず13インチでは軽自動車でも履かないようなサイズなので、タイヤのイメージアップ、宣伝効果が低いため。また近年のF1マシンはあまりにも速くなりすぎたので、速度を抑える方向にしていきたいという思惑もある。車体のレギュレーション変更やタイヤサイズ、最低重量の増加、燃料などの変更により、今年のマシンは昨シーズンよりラップタイムが1秒遅くなると言われている。
そのため、18インチ化でパフォーマンスがダウンしても問題ないわけだ。ハコ車の場合でも、ブレーキのローター径などを大きくしない限り、インチアップはパフォーマンスアップのメリットが乏しく、ドレスアップ、ルックス的効果がメインというのが現実だ。繰り返しになるが、バネ下重量は軽いに越したことはない。