アウトドアに向かないは嘘!! 車中泊できるセダンとはどんなクルマか?
かつて、筆者がキャンプ場取材の仕事で那須高原に出かけた帰りのことだ。なんと東北自動車道数カ所で事故。その渋滞が佐野SA手前まで延々と伸び、やっとのことで佐野SAに入れたものの、駐車スペースが満杯どころか、本線へのアクセス路も大渋滞。すでに渋滞疲れで眠気もあったことから、これは休憩しなくてはと思い、食事をし、用を足してから車内でひと眠りすることにした。とはいえ、今日、乗っているのは試乗車のミドルクラスセダン。最初は後席に丸まって寝ていたのだが、どうにも窮屈で眠れそうにない。
そこで、ふと思いついたのが、このセダンには珍しくトランクスルーが付いていたこと。で、さっそく後席の背もたれを倒し、トランクと後席部分をつなげたスルー空間を出現させたのである。後席背もたれ部分の全長はそれなりだが、トランクの奥行きがたっぷりあったため、多少の段差はあるものの、なんとか足を伸ばして(※もちろん頭は後席側)横になることができたのである。
おかげで短時間ながら眠ることができ、すっきりして起きたころには渋滞も解消。セダンでも車種、後席のアレンジによって、プチ車中泊(※泊まってはいないけれど)が可能なことを知った貴重な体験だった。
車中泊が得意なセダン01:レガシィB4(BN型)
さて、そのように3ボックスのセダンであっても、ある程度の大きさがあり、後席が可倒式でトランクスルー機能を発揮できれば、大人ひとりならなんとか横になることができるというワケだ。つまり、ひとり、あるいは車種、寝る人の体形によってはふたりでも車中泊的な体験が可能になる。
残念ながら、今、新車で買える国産車のなかに、後席可倒式のセダンはほぼ見当たらない。だが、中古車なら選択の幅は広がる。その筆頭が、先の筆者のエピソードで主人公となる、今はなきスバルのミッドサイズセダン、レガシイB4だ。
そのトランク容量はワゴンに匹敵する525L(VDA方式)。わかりやすく言えば、9インチのゴルフバッグが4セット入る広さを誇る使い勝手なのである。さらに床下には18Lのサブトランクまで備わっている。そして何と言っても、6:4分割の後席の背もたれをパタンと倒すことができるから便利。本来は長尺物の積載に対応した設計なのだが、上記の通りトランクとキャビンをつなげることで、身長172cmの筆者が足を伸ばして寝ることができたスペースが確保されるのである。
車中泊が得意なセダン02:トヨタ・プレミオ/アリオン
ややコンパクトながら、これまた今はなきトヨタのプレミオ/アリオンも、6:4分割でなおかつダブルフォールディングで低く格納できる後席を備えた、セダンにして“ユーティリティカー”と呼びたくなる空間アレンジ性の持ち主だった。
ダブルフォールディングによる格納は、座面部分を垂直に立てることになるのだが、それが拡大したトランクスペース(!?)の前端に、防波堤のような機能を果たしてくれる。荷物を積んだとしても、それが前席に飛び出さないメリットをもたらしてくれるのだ。
さすがに大人が真っすぐ横になれるようなスペース(長さ方向)は得られないものの、トランクと後席部分のつながったスペースはそこそこフラットだから、多少足を折るなどすれば、大人でも寝れないことはない。もちろん、本来のトランクスルーの使い方として、セダンタイプにして2名乗車ならかなりの荷物を積み込むことができる点も評価できる。
国産セダンとしてはこのほかに、ホンダ・グレイスやシビックなども、トランクスルーを備えたセダンとして2〜3名乗車限定なら、トランクスペース+αの荷物の積載スペースを作り出すことができるから便利だ。ある意味ワゴン要らず……と言っていい車種たちである。
車中泊が得意なセダン03:VWパサート(B8型)
一方、輸入セダンにもトランクスルー付きのセダンがある。例えばVWパサートだ。パサートはヨーロッパのタクシーで使われる定番車。そのトランク容量の大きさ(※クラス最大級の約586L/ISO計測法)から、空港待ちで旅行者数名分のキャリーケースを積み込むなど余裕中の余裕。ヨーロッパに出掛け、空港、または帰路でホテルのタクシー乗り場でパサートのタクシーに遭遇すると、なんだか頼もしく思えるのも本当だ。
しかも、パサートセダンの後席は、6:4分割(※パサートヴァリアントは4:2:4分割)で後席を倒すことができ、その状態では驚愕の1152Lものトランクスルー空間が出現。スルー空間のフロアをベッドに見立て、大人が横になることだって可能なのだから使い勝手抜群である。
車中泊が得意なセダン04:BMW 3シリーズ(E90型)
また、BMWの第5世代3シリーズのE90型からボディサイズが一気に拡大し、後席が格段に広くなった。比較的コンパクトな部類とされるミドルサイズセダンでも、トランクスルー機能が付いていて、このクラスにしてトランクと後席部分をつなぐ約180cmものベッド(!?)スペースを出現させることができる(※実際に真っすぐ横になって寝たことあり)。
とはいえ、後席部分が枕元として、足をトランクのなかに入れるのだから、カプセルホテルよりさらに窮屈で足の置き場が制限される就寝スタイルになることは間違いない。マットレスがないと快適に眠れるはずもない。
セダンのトランクスルー機能は、あくまで、荷物の積載性を高めるためのアレンジとして理解し、使うのが正解だ。筆者のレガシイB4での体験のように、緊急時にのみ横になれるアレンジだと思ってほしい。もちろん、それができる、できないでは、いざというときに大きな違いをもたらしてくれることは間違いない。