WRCの大変革で「WRカー」から「ラリー1」に転換
1973年にスタートした「WRC(世界ラリー選手権)」もついに50周年を迎える。それに合わせて2022年のWRCはレギュレーションを一新。それまでトップカテゴリーの主役を担ってきた「WRカー」に代わって、新たに「ラリー1」を導入している。2021年のWRCで「三冠」を達成した「トヨタGAZOOレーシングWRT」も、ラリー1規定で開発されたニューモデル「トヨタGRヤリス・ラリー1」を投入した。
ハイブリッド化したマシンは最高出力500ps以上
GRヤリス・ラリー1の特徴を解説する前に、「ラリー1」について触れておこう。
まず、ラリー1の最大の特徴となるのがハイブリッドシステムを導入したことで、文字どおり、内燃エンジンと電気モーターを搭載。内燃エンジンは昨年までWRカーに搭載されていた各メーカーの1600cc直列4気筒直噴ターボで、ハイブリッドシステムについてはドイツのコンパクトダイナミクス社のワンメイクとなっている。
このハイブリッドユニットは3.9kWhのバッテリーとモータージェネレーターユニット(MGU)、インバーター/マネジメントシステムで構成されており、カーボンのハウジングに納めたユニットを冷却用ラジエータと合わせてリヤセクションに搭載される。
システム自体はブレーキング時にエネルギーを回生し、アクセルオンの際に放出するというシンプルなスタイルだが、このMGUは最大出力として100kw=約134ps、最大トルクとして180N・mをEVブーストとして使用可能。内燃エンジンと組み合わせることにより、ラリー1車両は最大で500ps以上の出力を誇ると言われている。
回生/放出の使いこなし方がリザルトを左右
ちなみに、このハイブリッドシステムはロードセクションをモーターのみで走行する「フル電動モード」のほか、SSでのスタート時に100kWの電気モーターをEVブーストとして使用できる「ステージスタートモード」、そしてバッテリーパックに蓄えられたエネルギーを加速時に消費し、ブレーキング時に回生する「ステージモード」と3つのモードが設定されている。ステージモードに関しては、回生/放出のマッピングを3種類まで自由に設定可能だ。
このステージモードをいかに設定するのか、またエネルギー放出/回生を生かしたアクセルワークおよびブレーキングを行うかが、リザルトを左右するポイント。ハイブリッド初年度の2022年はチームにとってもドライバーにとっても、ラリー1車両への対応能力が求められるシーズンとなっている。
ボディセルは市販車とは別物なのでスケーリング自在
そのほか、これまでのラリー車両といえば、市販車両のスチールボディをベースに開発されてきたが、ラリー1車両に関してはチューブラーフレームのボディセルを採用。これにベース車を由来とするボンネットやドアなどの外装パーツを装着すればOK……といったように、まさにレーシングカー的な発想で、なおかつ、車両の拡大・短縮などのスケーリングが行えることから、ベース車両の選択肢が広くなったこともラリー1車両の特徴だ。
その一方で、価格の高騰を防止すべく、アクティブセンターデフが禁止されたほか、ギヤボックスも6速から5速、シフトに関しても油圧パドルからシーケンシャルに変更されるなど簡素化されたこともポイント。これに合わせてラリー1車両では、フロントカナードやリヤディフューザーを禁止にするなどエアロパーツも制限されている。
なお、車両規定に合わせて燃料も100%持続可能な非化石燃料に変更されたことも2022年のWRCにおけるトピックスのひとつ。
まさに2022年のWRCは大変革を迎えており、前述のとおり、トヨタGAZOOレーシングWRTがトヨタGRヤリス・ラリー1を投入したほか、ヒュンダイWRTが「ヒュンダイi20 Nラリー1」、Mスポーツ・フォードWRTが「フォード・プーマ・ハイブリッド・ラリー1」を投入している。