GR86とBRZの明確なセッティングの違いをもたらす狙いとは
GR86とBRZの2車のセッティングをボクなりに読み解くと、フロントスプリングを柔らかくしリヤスプリングを硬めのバネレートとしたGR86は、フロントスプリングが硬く、リヤスプリングが柔らかいBRZと比べると、前輪への荷重移動がしやすく、旋回を考えるとコーナーアウト側前輪の沈み込みが大きくなるため荷重を乗せやすい。同時に後輪はバネレートが高いのでロール剛性が高くロールは少なめになる。つまりフロント左右方向に姿勢変化が大きく起こり、結果としてノーズが入りやすい姿勢になるのだ。
一方BRZは、GR86と比べるとフロントのバネレートが高いため、サスペンションの沈み込みは少なく、逆にリヤはソフトなので、全体としてはリヤが沈み込み、結果的にカーブに対してアウト側が大きく沈み込むことで安定性の高い姿勢になるというワケだ。
またフロントスタビライザーは、旋回時は補助バネとしてロール量をコントロールする方向に機能するため、GR86はこれを中実の18φ、BRZが中空の18.3φとしている。スバルはフロントまわりの軽量化を行うためであり、フロントハウジングをアルミ化するとともにスタビライザーも中空化して軽量化を図っているのだ。
これに対してGR86は、ステアフィールにこだわってフロントハウジングを先代86と同じ鋳鉄とし、スタビライザーもバネ特性の素直な中実を選択。トヨタのエンジニアによると、重さよりもステアフィールやクルマの動きにこだわったセッティングにしたということであった。ただ、その割にリヤスタビライザーの取り付け方法は、スバルがリヤサポートサブフレームを追加してスタビライザーをボディ直付けとしているのに対して、GR86はあえて従来通りのサブフレームマウントに戻している。
このあたりのトヨタ側の意図は明らかにされていないが、想像するに元々リヤのバネレートが高いGR86は、スタビライザーを直付けにするとスタビの捻れ、スプリングによるバネレート変化の影響が大きくなり過ぎるために、あえて鈍感なサブフレームマウントにしているのではないかと考える。
これに対してリヤのバネレートが柔らかなBRZは、スクオート(沈み込み)方向には柔らかく安定性を出しながら、ロール方向にはスタビライザーを補助バネより強く引き出し、ロール量をコントロールしているように見てとれた。GR86がサーキットではテールハッピーと言えるくらい曲がりやすく、BRZがどっしりした安定性をともなった弱アンダーになっているという、両車の違いに合点がいったというワケだ。
公道試乗でGR86とBRZの走りに合点がいったワケとは
もちろん、ダンパーの減衰力や伸縮の減衰バランスでも操縦性の味付けは変わってくる。だが、見方を変えればダンパーのセッティングで安易に味付けを変えるだけではなく、バネやスタビライザー、フロントハウジングの材質やスタビライザーの取り付け方法にまでこだわって作り込んでいるところに、トヨタとスバルのこだわりの強さが感じ取れるのだ。
そのくらいこだわって足まわりの細部にまで手を入れているのに、安易にGR86の操縦性をテールハッピーと切り捨ててしまっていいのか……。そんなモヤモヤした感覚を残しながらあらためて公道試乗に臨んでみると、じつは、想像した以上にGR86の操縦性の良さが光っていた。
とくにそれが良く表れていたのが上りのタイトな切り返しのコーナーで、アクセルやブレーキで減速する必要がないけれども、カーブに合わせてノーズをスイッと曲げていきたい場面だ。GR86は面白いようにノーズがスイスイ曲がり込み、軽快機敏にコーナーをクリアしてくれるのだ。
テールハッピーで山道では不安定、あるいは曲がり過ぎる感覚が強くなるのでは? と思えたサスセッティングは、タイヤのグリップ限界に余裕を残していることもあるのか、シャープさや軽快感はあるが不安定感を感じることがなく、サーキットで感じたときよりもはるかに楽しく気持ちよく、山道を走ることができたのだ。
一方、BRZはと言うと、減速を必要としない上りのタイトなコーナーではハンドルを深め(多め)に切って前輪に荷重を乗せるか、一瞬のアクセルオフで荷重移動を行わないと、フロントタイヤがアウトに逃げていく(感じ)が現れることがあった。BRZの場合、そんな場面でもセオリーにフロントタイヤへ適度に荷重を乗せてやり、旋回させていくという手順が必要になる。
これはこれで操る面白さを阻害するものではないが、どんな場面でもスイスイ曲がり、気持ちよく走れるGR86と、クルマの操縦性を弱アンダーにセットし、荷重移動をイメージしながらクルマを操るBRZ。そんな違いがある。つまりトヨタの考える操ることの面白さと、スバルの考えるクルマを操る楽しさには少なからず温度差があるということだ。