「TWINCAMヌーベルバーグ」なるCMもあった
初代「スズキ・カルタス」の登場は1983年。このデビューに接した当時、筆者の脳裏をよぎったのが、1965年に登場(10月発売)した「フロンテ800」だった。「そうかぁ、あの“ノイエ・クラッセ”(BMW1500)を思わす美しいFFセダンの登場から18年ぶりのスズキの小型車かぁ」と、ひとりでシミジミと思っていた。その後スズキは4輪では軽自動車に注力することとなり、ステキだったフロンテ800も残念ながら4年弱の短命に終わって後継車種も登場しなかった。だからこそ、新たな小型車の登場にはちょっとした興味があった。
スズキとGMのコラボで生まれた世界戦略車
そして初代カルタスの全貌が明らかになり、その印象は「ふーん」。当時スズキはGMとの提携関係が加速、そこでGMの世界戦略車としての使命がこのカルタスに与えられた。駆け出しの自動車雑誌編集者のころ、キャプションで書くことに困ったときには「シンプルで飽きのこないスタイリング」と書けばいい……と教わったが、まさにそのとおりで、非常にアクの「弱い」、普通の大人しい3ドアハッチバックに見えた。
強いて挙げれば、インパネは当時の流行だったクラスタースイッチを用いたデザインで、多少は気の利いたデザインかなと思わせられる程度。ちなみに初代カルタスデビューの同じ年の1月、好ライバルの「ダイハツ・シャレード」は、1977年に登場した初代から奇しくも2代目にフルモデルチェンジ。そちらは「デ・トマソ・ターボ」が登場するくらいで、直線的な、ちょっとイタリアの「イノチェンティ・ミニ」を思わすスタイリングが人目を惹いていた。
当時ライバルは「シャレード」や「マーチ」
初代カルタスに話を戻せば、軽自動車の「アルト」に搭載したエンジンよりも軽い、整備重量63kgの3気筒1Lエンジンの搭載、半楕円リーフスプリングのリヤサスペンション(コイルバネのように室内に突出しないから広さが稼げた)など、いかにもスズキらしい(=GMらしい)合理的な設計が特徴。最低価格は63.5万円と、ライバルのシャレード、マーチと横並びのプライス・タグが下げられていた。
ところで初代は登場翌年には、5ドアや1.3L、1Lターボなどを設定。有名な「オレ・タチ、カルタス。」のコピーで、俳優の館ひろしさんご本人が登場した広告展開はこのころのことだ。さらに1986年には「ハード・タチ、カルタス(Hard Touch, CULTUS)」なる、当時の覚えがまったくないが「連作」のコピーで1.3Lのツインカム16バルブ(当初は97ps/11.2kg−m)搭載の「GT-i」を設定。82ps/12.0kg−mへとわずかだけ性能を上げたリッターターボとともに専用カタログが用意されるまでに。このころにはリヤサスペンションがトーションビームに進化し、カタログにも堂々と透視図が載るようになった。