ドライバーの安全を守るのが使命!
レーシングカーの室内に張り巡らされている鉄のパイプ。ロールバーまたはロールケージと呼ばれているが、はたしてどんな役割を持つパーツなのだろうか。装着するメリットにデメリット、合法か非合法かなどを解説する。
ロールバーとは? ロールケージとの違い
ロールバーとは車室内に取り付ける金属パイプのフレームを指す。公認レースの車両はレギュレーションによって装着が義務化されており、ナンバー付きのサーキット仕様でも見かける機会は意外と多い。
ロールバーの特徴
パイプはピラーやルーフに沿って取り付けられ、材質はスチール/クロモリ/アルミなどさまざまだ。公認レースでは強度の高いスチールが指定され、パイプの直径や厚みまでが細かく決められている。なおロールバーは同じ車種でも4点式や6点式といった『点数』があり、その数え方がビギナーには少し分かりにくいのであらためて説明しよう。
基本はフロアに固定するバーの数で、フロントもしくはリヤのみ4点式、前後とセンターピラーの下で固定してあれば6点式となる。それに斜行バーなどが追加されるに従って5点式、7点式と数が増えていく仕組みだ。当然ながら点数が多ければ多いほど重量増や価格も高くなるので、ナンバー付き車両なら6点式や7点式がスタンダード。ただし本格的な競技車両は15点式を超えるケースもあり、まさしく『ジャングルジム』という表現が相応しい複雑な作りとなっている。
取り付け方法は大きく分けてふたつ。カンタンなのはパイプ同士をボルトとナットで固定する方法、もうひとつはすべてのパイプを溶接によって組み付ける方法だ。ほかにもダッシュボードにパイプを貫通させる製品、パイプを曲げてダッシュボードを逃す製品など、ロールバーには点数のほかにも細々とした違いがある。
ロールケージとの違い
ちなみに『ロールケージ』という言葉を知っている人も多いだろう。両者とも同じパーツを指すと考えて差し支えないが、バー(bar)は棒でケージ(cage)は籠を意味する。つまり言葉の意味を正確に捉えれば『ロールバー』はパイプ単体で、そして『ロールケージ』はパイプを組み合わせた集合体、という解釈が正しいのかもしれない。ロールバーもロールケージも間違いではないし、性能に差があるワケでもないと覚えておくべし。
ロールバー(ロールケージ)の役割
役割その1:車体がつぶれるのを防ぎ命を守る
次はロールバーが果たす役割。モータースポーツに興味がある人には説明するまでもないが、最大の目的はクラッシュしたとき乗員を保護することだ。上で解説したとおりロールバーは強度のある金属パイプであり、またピラーやルーフに沿って装着される。そのため、転倒のような大きな事故があっても車体が潰れず、ドライバーが致命的なダメージを受けにくい。
ピラーはそれなりに強度を持たせた設計であるものの、サーキットでは最高速が200㎞/hに迫るケースも珍しくない。そんな速度域でクラッシュすればボディなんていとも簡単に潰れてしまうが、ロールバーを装着していれば生還できる確率は飛躍的に高くなるだろう。
役割その2:ボディの剛性を高める
ふたつ目の役割はボディ剛性が上がること。クルマは鉄板と鉄板を繋ぎ合わせており、ドアやトランクといった開口部も少なくない。一般道を常識的な速度で走っている限りは体感しにくいが、ボディ全体では少なからず歪みやねじれが発生しているのだ。
しかしロールケージをピラーやルーフに密着させて取り付ければ、車室内にもうひとつ強固なパイプフレームを追加したのと近い状態になる。ボディ剛性が上がれば走行中のねじれや歪みが抑制され、サスペンションのムダな動が減って本来の性能を発揮しやすく、さらにセッティングを出しやすくなるという副産物も生まれる。
もっともサスペンションの動きにはブッシュなども関係しており、ロールバーさえ入れれば完璧というワケではないものの、非常に有効なチューニングのひとつであることは間違いない。
ちなみに勘違いしやすいのがボディ剛性とボディ強度。ロールバーによって向上するのはあくまで『ボディ剛性』であり、車体そのものの強さである『ボディ強度』は変化しないので注意しよう。大切なのはロールバーは乗員を保護するだけじゃなく、速く走るためにも有効なチューニングパーツであるということ。だからこそナンバー付き車両でも高い人気を誇っているのだ。
ロールケージのメリットとデメリット
ロールバー(ロールケージ)のメリット
続いてはロールケージのより詳しいメリットと、デメリットについても説明したい。最大のメリットは上でも書いたとおり、大きなクラッシュからドライバーを守ること。レースに限らずサーキット走行では事故の可能性が大なり小なりあり、スピードの制限がなく何かアクシデントが発生した際の被害は甚大だ。
また事故のダメージを軽減してくれるのは、サーキットだけじゃなく一般道でも変わらない。とくにドアの内側に装着する『サイドバー』があれば、横転や正面衝突だけじゃなく横から突っ込まれたときも、身体へのダメージを大きく軽減してくれること確実。
ボディ剛性の向上も恩恵があるのはサーキットだけじゃない。車体の歪みやねじれが減れば乗り心地が改善されることはあるし、常識的な速度でもコーナリングやブレーキングの安定感は伝わるはず。
ロールバー(ロールケージ)のデメリット
さらに安全や速さとは関係ないもののレーシングカーっぽい外観は、ドレスアップ効果も高く後述するパッドの色でも個性をアピールできる。しかしながらデメリットが皆無なワケではなく、それらも忘れずに解説しておきたい。
まずは車内に複数のパイプを組み付けるので、居住空間はどうしても狭くなること。とくにパイプを足もとでフロアに固定するため、乗降性は少なからず犠牲になると考えたほうがいい。ただしダッシュボードを貫通するタイプなら、脱着や穴開けで工賃は高くなっても乗降性への影響は少ないはず。また近年はナンバー付き車両を前提とした設計のロールバーが多く、レース専用の装備だった時代よりはレイアウトが考慮され、街乗りが苦になるほどの不便さは感じないと思われる。
そして以前は6点式を超えるロールケージであれば、リヤシートを外し乗車定員を変更するのが当たり前だった。それも現在なら乗車定員はそのままで、リヤシートを外さず装着できる製品も多くあり、大きなデメリットとはいえないだろう。なお点数が多ければ多いほど重量は増えるが、剛性や安全性の向上と差し引けば十分にお釣りが出る。
そのほかはボルトで固定するタイプでもフロアに穴を開けるので、買い換えるときの査定に悪影響があるかもしれない。ただしスポーツカーの専門店であったり、個人売買なら逆にプラスとなる可能性もあるため、一概にデメリットと決め付けてしまうのは疑問だ。
ロールバー(ロールケージ)を装着した車両で公道を走るためのルール
ロールバー(ロールケージ)を装着した車両でも行動走行は可能
最後はロールバーを装着した車両で、公道を走行するために必要なこと。レース専用品というイメージを持つ人も多いが、正しく取り付けたり必要な手続きさえすれば、車検は普通にパスするし違反にもならない。
ロールバー(ロールケージ)装着車両で公道を走行する際の注意点
ロールバーにパッドを巻く
絶対に必要なのは『ロールバーパッド』と呼ばれる、緩衝材を人が乗る部分のパイプに巻き付けること。専用品じゃないにしろ何かしらの緩衝材がないと車検に落ちるし、街乗りでは事故のとき頭をぶつける危険性があり、安全どころか危険なパーツとなってしまう。このことは『道路運送車両の保安基準』の第18条2項に記されており、DIYで取り付けにチャレンジする場合は気を付けてほしい。
運転の視界を妨げない
もうひとつ『平成28年11月1日以降の新型車及び平成30年11月1日以降の継続生産車』は、運転席から前方の一定範囲に視界を妨げる遮断物を置くことを禁止する、『自動車の運転に必要な直接視界に係る協定規則』第125号も関係する。またリヤシートを取り外すタイプのロールバーを使うなら、乗車定員の変更を行うのも忘れずに。ちなみに2名乗車にするならロールバーパッドは運転席と助手席だけ巻けばOKだが、4名や5名のままであれば後席の部分も巻かないとNGなので要注意だ。
まとめ
レースや本格的なサーキット走行にはモチロン、街乗りでも少なくない恩恵があるロールバー。速さと安全性と見た目を満たすチューニングパーツ、役割や装着や行動を走るときの注意を正確に理解したうえで使ってほしい。