性能を追求するなら“空力に精通している”メーカーの製品をチョイス
「エアロパーツって、ドレスアップがメインで、市販車に付けても意味があるのだろうか?」と思うかもしれない。レーシングカーではエンジンとタイヤと並ぶ、エアロこそが勝敗を左右する最重要エレメントで、F1では各チームに専属のエアロダイナミストが複数所属し、日夜研究開発を続けている。なぜ空力パーツがここまで重視されるか。
空気抵抗は速度の二乗に比例する
まず空気抵抗の問題だ。空気抵抗は速度の二乗に比例するので、高速で走れば走るほどその抵抗が大きくなる。クルマの場合、160km/hを超えると、走行を邪魔する抗力の約90%は空気抵抗といわれている。
「1周2kmの筑波サーキットを1分フラットで走ったら、平均速度は120km/h。ヘアピンのボトム速度はその半分となるので、サーキットといってもストレートの長いFSWや鈴鹿ほどは空力パーツの効果はないのでは?」と思うのは早計だ。
自転車=ロードバイクでも40km/hで走ると1秒間に3kgの抵抗を受けているといわれている。北京オリンピックで女子が銀メダルになったスピードスケートのチームパシュートでは、先頭に働く空気抵抗力は 1.4kg、2番手は 1.1kg、3番手は 0.89kg と、先頭車の負担が大きいので、疲れを蓄積しないために先頭が入れ代わることで知られている。
マラソンでも空気抵抗の影響は大きく、単独で走っているときの空気抵抗係数が0.97だとすると、ふたりのペースメーカーに前後に挟まれて走ったときは0.11。ふたりのペースメーカーと3人で縦に並んだときは、もっとも後方で走ったときに0.30。3人のペースメーカーを横に並べてその後方を走ったときは、0.07にまで低減することがわかっている。
このマラソンのように、20km/h弱でも空気抵抗の影響が大きいことを考えると、大きなサーキットだけではなく、ミニサーキット、そして一般公道ですらエアロパーツは意外に大きな仕事をしていて侮れない。
身近なところでは、前後のタイヤの直前についている、小さな整流版=「ストレーキ」もけっこう重要だ。「ストレーキ」はタイヤに直接当たる走行風を左右に分散させ、ホイールアーチ内の圧力を下げ、空気抵抗を減らすとともに、ノイズを低減するパーツだからだ。
ホイールハウス内の空気を抜くカナード
フロント周りでいえば、バンパーの両脇に取り付ける小さな羽根、カナードも空力パーツとしてとても有効だ。カナードはボディサイドに強い渦=ボルテックスを作って、ホイールハウス内の空気を引き抜く働きがある。そのため、ホイールハウスのなかで逃げ場がなくなった車体を持ち上げる力=リフトフォースを減らし、ダウンフォースを稼ぐことができる。
よくできたカナードならば、フロントのダウンフォース(CLf)を8%も増加させ、ダウンフォースとトレードオフになりやすいドラッグ(Cd値=空気抵抗係数)は+0.3%で抑えることができたりする。
小さくても効果は絶大なリヤウイング
そしてダウンフォースといえば、リヤウイング。大きなリヤウイングはダウンフォースも大きいがその分抵抗も増えてしまう。一方で小さなものでも効果はとても大きく、例えばホンダS2000だと、タイプSの純正ですらあるとなしでは大違い。大きなサーキットではなく、袖ケ浦のようなサーキットでも、リヤウイングの有無で安定感がまるで違う。S2000でサーキットを走るのなら、ぜひともリヤウイングは欲しいところだ。
逆の例では、R32GT-RのNISMOに追加されたリヤスモールウイング。空力パーツが市販状態からいじれないグループAレースでは、リヤスモールウイングが追加されてしまったために、フロントがリフト気味になり「ない方が良かった」と不評だった! そういう意味で、空力チェーンは前後のバランスも非常に重要といえる。
空気の抜け穴を作ったりすることでも空気抵抗を減らせる
あとはNACAダクトや開口部の大きいフロントバンパー、ブレーキの導風板や冷却ダクトなど、クーリング系のエアロパーツもサーキットでは大きな武器になる。そのほか、エアロワイパーやボディ下面をフラットにするカバーやパネルは空気抵抗軽減に大きく貢献している。またリヤバンパーの袋状の部分をメッシュにしたりして、空気の抜け穴を作ったりすることでも空気抵抗を減らせる。
そしてリヤディフューザーなども、ダウンフォースを得られ空気抵抗も減らせる一石二鳥エアロとしておすすめだ。とはいえ、エアロパーツは目に見えない空気が相手であり、ドレスアップが目的のものもあれば、モータースポーツで実績のあるものまでいろいろある。空力的効果を考えるのなら、空力に精通しているメーカーの製品をチョイスするようにしよう。