世代を超えて自動車フリークを癒やしてくれた丸目カーを振り返る
ここ何年も感じていることがある。それは「クルマの顔が少し怖すぎませんか?」ということ。筆者は仕事柄さまざまなクルマに乗る機会が多く、車高や着座位置が低いクルマに乗っていると、どうにも何かに睨まれているように感じてしまう。
最近流行りのクルマのデザインは、どうやら「オラオラ顔」とかアニメの「ガンダムデザイン」、さらにハリウッド映画の「メガトロンデザイン」と言うらしい。日本独自の軽自動車にも、厳つい系ミニバンのミニチュア版かと思わせるクルマが続々登場しているし、本家では新型ノア&ヴォクシーのデビューでさらに威圧スタイル人気に拍車がかかりそうだ。「オラ顔」談義は置いといて、愛らしさだけで十分に存在感が主張できる懐かしの「丸目顔」モデルを振り返りたい。
当時はランクルと肩を並べる存在感があった初代&2代目パジェロ
まず思い出すのは三菱パジェロだ。初代や2代目パジェロは’80年代のRVブームもあり大ヒット。その勢いは派生モデルの誕生にもつながり、初代パジェロミニやパジェロジュニアなどもRVらしいスクエアなボディを持ち、取り回し性能の高さを誇るとともに潔いほどのシンプルさが、4WDの走行性能とは反して街なかに溶け込んでいた。
また、スクエア基調のボディ形状は悪路を走る際の運転のしやすさにも貢献してくれた。それはオフロードだけじゃなく市街地でも同様であった。このパジェロの嫌みのない「顔」や「スタイル」があったからこそ、バブル期にRVブーム旋風を巻き起こした一台として、アラフォー&アラフィフ世代の記憶に今もなお刻み込まれている。
陸の王者ランドクルーザーもスクエアなボディに愛嬌を与えていた
RVつながりでいえばランドクルーザー70系ワゴンや、90系ランドクルーザープラドのショートボディがこれにあたる。ランドクルーザーの起源モデルであるトヨタ・ジープBJ型から続く、歴史の正当性は丸目がつないだと言えるだろう。いずれにせよ、当時としては大型だったボディは、丸目であることで威圧感を削ぎ落とす一定の効果があった。実際には、丸目ヘッドライトが世界的に部品入手しやすかったというのが本当のところだろうと思うが……。
決して売れたクルマではないが絶版後に中古車価格が高騰
丸目と言えばFJクルーザーも忘れてはならない。前述したランクルをはじめトヨタの歴代RV車を振り返ると、顔つきを含めたクルマ全体のデザインは現代的な解釈によって愛嬌が与えられ、絶版となった現在でも中古車市場などで人気を博し、ネオクラ世代の国産スポーツカーと同様に価格高騰の傾向だ。その一因と言えるのがこの普遍的なデザインであるとも言える。
ちなみにFJクルーザーは、燃費の悪さはさておき、悪路走破性の高さを誇り、ニッチな層からは局地的な人気を誇っていたのも事実。ランドクルーザー300の納車待ちが4〜5年と言われている今こそ、FJクルーザーのようなパーソナルで愛らしいSUVがあったらな〜と思う次第。しかも、世界で一番販売台数を稼ぐトヨタなのだからこそ、遊び心があればと思ってしまう。まぁ、その遊び心を許さない戦略的で緻密な営業手腕があるからこそトヨタが世界一なのだろう。
BMWのイカリングも広義では丸目顔と言える
目先を変えて輸入車を見てみると、こちらも昔は丸型をモチーフにしたヘッドライトが多かった。少し古いモデルになるが、4代目BMW5シリーズ(E39型)から始まったデイタイムライト(スモールランプ)は、イカリングとかコロナライトと呼ばれるリング状に光る丸い輪っかが個性的であった。
装着していないそれ以前のモデルであっても、ドレスアップでイカリングを装着するカスタムが流行するなど、話題を集めた。現在は丸型ではないものの、BMWミニは真円をベースとした楕円形を採用するなど、その愛嬌たっぷりのマスクは世界共通で人気を誇っている。
「オラ系」マスクが台頭するも軽自動車の丸目顔は不変の人気
愛嬌があるクルマが群雄割拠の軽自動車は魅力的な丸目モデルの宝庫だ。スズキ・アルトラパンやダイハツ・ミラジーノ、ダイハツ・コペンが代表的。とくにコペンは初代モデルが丸目ライトで大ヒットしたが、2代目モデルはセロを除き、ローブやエクスプレイ、GRスポーツはいずれも厳つい奥行き感のあるライト形状が採用されている。救いは初代コペンの愛らしさを求めるユーザーのために(?)、セロに唯一の丸目フェイスが残されたのはありがたい。
最近ではワゴンRシリーズにスライドドアを採用したワゴンRスマイルがデビュー。誰が見ても可愛いと感じる丸目ライトを強調したフロントマスクは、まさにスマイルの名に相応しい。ほかにも、軽自動車にはダイハツ・キャスト&ムーブキャンバス、ホンダにはN-ONEもあって、オラ系顔がいまだ人気を博している軽自動車界で一服の清涼剤になる存在と言える。
丸目といったらクラシックミニや日産のパイクカーを忘れるべからず
丸目顔と聞いてクラシックミニを想起する人も多いだろう。日本でも長きにわたり販売されてきたが、一時期、英国に次いで売れていたのが日本市場であった。また、1987年に日産のパイクカ―シリーズ第1弾としてBe-1が誕生すると、パオやフィガロ、エスカルゴも大ヒット。現存するタマ数こそ少ないものの現在では海外でも人気を集めている。
このように電球のようなカタチから始まった自動車のヘッドライトは、最近ではデザインの自由度が増したことで、異形型が登場するなど、個性をより主張できるようになった。また、キセノン(ディスチャージ式)からLEDへと進化を遂げ、ヘッドライトはさらに複雑な形状へと変わっていく。そんななか、日本でも丸目基調の愛らしいデザインは一過性のあるブームに終わらず、街ゆく人に多くの笑顔を与えてくれる存在になってくれるはずだ。
番外編としてスカイラインの丸目テールにも注目してみた!
ちなみに丸型と言えばスカイラインのテールライトがある。かつて丸型を止めたときは騒動にすら発展したほど、スカイライン=丸目テールが浸透していた。そのためか、スカイラインの名前が外れたR35型GT-Rでもなおスカイラインの名残を残すべく丸型テールを採用し続けている。
一説によると人間を含む、動物の多くの赤ちゃんが丸みを帯びているのは、その形状で愛される、保護される(=命の危険を減らす)という進化の歴史という説がある(※諸説あり)。そうだとしたら丸目顔人気は全世界共通で周囲から愛されやすい造形なのだと言える。
今後はBEV(バッテリーEV)の時代になるだろうが、ホンダeのように愛らしい顔のモデルが増えてほしい。厳つい顔が街の景観を汚すとは言わないが、「オラ顔」じゃなく「丸目顔」のクルマが街にあふれていたら、待ちを行く人々はそれだけで心が満たされたような気分になれるはずだ。