残念ながらブルーバードの名は消えてしまった
むかしむかし日産にブルーバードという、それはそれは真面目ないいセダンがおってな……。日本昔ばなしのようだが、あらためて調べ直してみると、10代目(U14型)最終型ブルーバードが終了したのが2001年だったから、もう20年余。さらにかろうじて2世代続いた後継のブルーバード・シルフィも、さらに後継の単にシルフィと呼ばれたモデルが2021年にカタログ落ちした。
オジサン世代にとってブルーバードといえば、ライバルのトヨタ・コロナとともに、自分と一緒に育ってきたような日本車のなかの1台。もちろん各世代に、読者の皆さんもそれぞれに思い入れがおありだろう。筆者にとっては、(極めて個人的な記憶になるが)幼少の時分に住んでいた杉並区阿佐ヶ谷の駅の近くの病院の前にいつも停っていた、クリームイエローの410のワゴンと、小学校時代に友人の家にあった510のクーペの“リヤの流れる方向指示器”に憧れた……そんな思い出がある。410も510も現役当時の話だから、今から何年前かとか“歳”の話にはあえて言及しないが……。
ガラッと変わった直線的なスタイルも人気だった
そんな(どんな?)ブルーバードの歴代モデルのなかで、近年のモデルで印象深かったのは? というと、やはり910型(1979〜1983年)だったのではいだろうか。歴代モデルのなかでいうとこの910型は6代目にあたり、次の7世代目(U11型)からFFに切り替わる前の、最後のFRでもあった。
と同時に前の810型、その前の610型と(710型はバイオレット)がボディサイズの拡大や当時の排気ガス規制の適合などの影響で人気が盛り上がらず。ブルーバード自体の存在感が弱まっていた流れを打破しなければならない……そういった必要性にも迫られていた。
そんななかで登場したのが910型だった。大人の事情で写真は割愛してあるが、何と広告宣伝のイメージキャラクターに起用されたのがジュリーこと沢田研二だった。最初のころの910型のカタログの表紙には、日本で白いスーツが似合うのは彼くらいのものだろう……と感じさせる、襟元の赤いカーネーションが際立ってまるでプロマイドのような彼の写真が。
さらに最初の見開きは広角でドーンと捉えた赤い910型のフロントとその横に彼が立ち、有名な“ブルーバードお前の時代だ。”のコピー。当時、そういう取材はしなかったから実際はわからないが、少なからず彼のファンにも“910ブル”は売れたのだろうとも想像できる。ちなみに1982年2月まで、小型車クラス販売・27カ月連続トップの記録を残している。
このクルマの大きな魅力は、前2世代からの反動のような、直線的でクリーンなスタイルになったことだった。しかもそれは“510の再来”と言われたもので、角型のヘッドライトのフロントまわりに一瞬、「あら、B2型アウディ80!?」と思わせるような印象もなくはなかった。だが、格段にスタイリッシュになったことは確かで、このカッコよさでブルーバード人気は急上昇。セダンとともに当初から設定された2ドアハードトップに加え、1982年1月にはピラーレスの4ドアハードトップも追加設定された。