全高は初代プリメーラより高く快適な居住性も自慢だった
そしてスポーツセダンと言えば三菱ランサーエボリューションを忘れてはならない。筆者はP10プリメーラの次の愛車としてCE9A型ランサーエボリューション3(以下、ランエボ3)を所有したのだが、このモデルも4ドアセダンとしてのユーティリティ性に優れていた。
全長こそP10プリメーラよりも小さいのだが(全長4310 mm×全幅1695mm×全高1420mm)、こちらも背が高くて居住性は十分に広いスペースが取られていた。それは前席だけではなく、後席頭上のルーフ高もしっかり確保されており、レアなケースではあるが後席でヘルメットを被っていてもゆとりのある頭上空間が備えられていた。
また、運転時の取り回しの良さや安全性につながる視認性についてもランエボ3は優れていた。それはクルマ自体のボディと屋根をつなぐ支柱であるAピラーやCピラーに関係してくるのだが、Aピラーはドライバーの視界を妨げない形状と太さに設計され、真ん中のBピラーは太すぎれば乗り降りの邪魔になってしまう。だが、ドアの開口面積が比較的広く取られていたこともあり、多少太くても問題はなかった。そしてCピラーの位置は後席乗員が煩わしく感じなければ良く(運転者から見て斜め後方の視界が狭いのは問題だが)、ランエボ3にはこうしたウィークポイントは一切なかったため、市街地での安全性と視界の確保という自動車の運転において、大切なポイントがしっかり抑えられていたと言える。
ベース車が持つ優れたパッケージングの良さをそのまま踏襲
もちろんプリメーラのようにパッケージングが突出して優れていたとまでは言えないが、P10プリメーラからランエボ3に乗り替えたとき、普段後席に乗る乗員から不満が聞かされることはなかった。もちろん後席のシート形状は、通常のランサーに対して特別なものではなく高級とは決して言えない仕立て。だが、ベースとなるランサーセダン自体の空間設計がしっかりしていたからだろう。ランエボ3もドライバーはもちろん乗員の居住性も配慮された4ドアセダンだった。
とくにしっかりと厚みのある後席の座面と背もたれの快適性、そして後席前の足もとスペースは175cmの筆者が座ってもガニ股のように大きく足を開くことなく座ることができ、三菱が長年に渡り4ドアセダンを作り続けてきた知見が集約されていることが感じられる。
つまりはランエボはただ速い4ドアセダンではなく、セダンとしての居住性とトランクの積載性を犠牲にすることなく、ハイパーと言えるほどバカッ速な4ドアセダンを誕生させたのだ。もちろんWRCをはじめとしたラリー競技を戦うためのモデルであったわけだが、いわゆる大衆車のランサーをベースにエボリューションモデルを生み出し、WRCでも販売面でも偉大な結果を残すことになった。
おそらく第2世代のランエボ以降(エボⅣ以降)は、エボリューションモデルの開発も視野に入っていたのだろうから第一世代の知見を組み込めたのだろう。だが、初代ランエボが売れなかったらランエボ2、ランエボ3は生まれなかったはずで、ベースモデルの4代目ランサーの開発初期段階ではエボリューションモデルのリリースは見込んでいなかったのではないだろうか。
ルームランプすらもユーザーフレンドリーだった第1世代のランエボ
P10プリメーラとランエボ3はメーカーも違うし、開発から発売に至るまでのアプローチやかけるコストも違ったはず。当時は『安くて壊れない』が魅力のひとつであった日本車にあって、日産と三菱のそれぞれの開発陣による豊富な知見と自動車メーカーとして、長年に渡り積み上げきたクルマづくりの哲学を惜しみなく投入。それにより、実用的なセダンに走りというスパイスを効かせた希代のスポーツセダンを誕生させることができたのではないか。
こうした作り手の思想や思いをユーザーが感じ取り、自動車雑誌やウェブメディアなどで語り継がれ、P10プリメーラとランエボは名車としていまも多くのクルマフリークの思い出として君臨している。
余談になるが、ランエボの第1世代のルームランプは前後席の中間にある普通のランプなのだが、他社のような小さいスイッチが付いているのではなく、レンズカバー自体をスライドさせることで常時点灯や消灯、ドアの開閉による点灯が選べるようになっていた。この機能は運転席から目視せずに手を伸ばすだけで点灯・消灯ができた優れた設計であった。
もちろん、当時筆者はそこもお気に入りポイントであり、細かな部分にもドライバー&パッセンジャーファーストが追求され、そこも含めて自慢の愛車であった。ただし、ランエボが第2世代に生まれ変わると残念ながらこの機能は廃止され、それ以降のランエボには小さなスイッチが採用されることになる。当時の開発陣にその理由を伺うと「全体がスライドするのが安っぽい」という声があり、新たにスイッチが設けられたそうだ。
P10プリメーラとランエボシリーズは、ともに販売面でのヒットがあったからこそ変化をもたらし、進化してきたと言える。この日本が誇るべき2台のスポーツセダンを愛車にすることができ、少し大げさに聞こえるかもしれないが、日本のモノづくりの偉大さにほんの少し触れることができたように感じている。それもこれも、バブル末期にP10プリメーラとランエボ3が誕生したからにほかならない。