第五共和制で最初の大統領車は意外な「シムカ」
お気づきの通り、大統領専用車は当代につき1台ではなく、大統領府では同時に数台が管理されている。ミッテラン元大統領以前ポンピドゥ元大統領以後の大統領、ヴァレリー・ジスカール・デスタン元大統領は「DS21」、「プジョー604」、「DS23」さらに「シトロエンCX」へと乗り換えた。
いずれ、大統領と専用車のイメージを決定づけたのは、軍服姿のあのシャルル・ド・ゴール元大統領とシトロエンの「トラクシオン・アヴァン」だが、第五共和制で第1号の大統領専用車として制式採用されたのは、意外や「シムカ・プレジデンス」だったりする。そういう意味でも、シトロエンもクライスラーも飲み込んだ「ステランティス」グループは、必然だったかもしれない。
テロリストからド・ゴール元大統領を救った「DS19」
大統領専用車がフランスで重大な意味をもつ事件が起きたのは、1962年8月22日。パリ南西郊外のプチ・クラマールで、帰宅中のド・ゴール大統領を乗せた「DS19」が、当時のアルジェリア独立反対派に機関銃で襲撃されたのだ。約150発の発砲弾のうち20発ほどがクルマに命中し、頭の高さで貫通した弾すらあったが、ド・ゴール元大統領本人と夫人、同乗の大佐と運転手は奇跡的に無傷だった。しかもDS19は両後輪がパンクし、ウインドウ1枚が割れながらも走り続け、襲撃から逃げおおせたという。かくしてフランスのクルマ好きはしばしば、「FFだから事なきを得られた」と解釈しがちだったりする。
心地がついてからド・ゴール元大統領は、「トランクの鶏(丸鶏で未調理)は大丈夫かな」と言ったとか言わなかったとか。おそらく後世の脚色で、実際には「かすっただけで済んだな」と述べたらしい。現在もこのDS19はコロンベイ・レ・ドゥ・エグリーズのド・ゴール記念館に展示されている。
重厚長大ゴテゴテな「DS21プレジデンシャル」
もう1台、ド・ゴール元大統領の専用車として名を馳せたのは、1968年に大統領府に納められた「シトロエンDS21プレジデンシャル」ことナンバー「1-PR-75」の車両だろう。全長6.53m×全幅2.13×全高1.60mの特装ボディで、重量は2066kgに達した。これも都市伝説では、ド・ゴール元大統領がアメリカ大統領専用車より大きく立派であることを条件にオーダーしたといわれるが、どうやら周囲の忖度だったらしい。本人は運転手との仕切りガラスが嵌め殺し固定のため、直接に話しかけられない点が、ひどく気に召さなかったそうだ。