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「特別感」がないことが「本気の印」! トヨタがEVの「bZ4X」に込めたメッセージを走って感じた

ついにベールを脱いだトヨタの本気EV

 世界に先駆けハイブリッドを発売し、これまで他を圧倒する販売実績を持ち、さらにはFCVも加えて電動化技術では知見も経験もどこにも負けないトヨタだが、BEV(バッテリーEV)においては慎重姿勢を貫いてきた。そのトヨタが、いよいよBEV市場に本格参入する。

 この「bZ4X(ビーズィーフォーエックス)」では、「トヨタ(GR)86」と「スバルBRZ」における協業に続くスバルとの共同開発となり、そこには当然としてスバルの豊富なAWDの経験と技術も盛り込まれている。

サーキットで動力性能と運動性能を検証

 両車、プロトタイプでの試乗会が開催されたが、bZ4Xはサーキットで、スバル版の「ソルテラ」は雪上でとあいなった。タイミング的に先に乗れたのがbZ4Xで、千葉県にある袖ヶ浦フォレストレースウェイにおいて走りを試した。ここはサーキットとしては舗装が一般道に近いもので、極端に路面ミューが高くないのが特徴。

 それだけに、本来の動力性能や運動性能を知るには最適だが、路面のサーフェスがフラット過ぎて、路面からの入力に対しての音や乗り心地などでは、少しわかりにくいところもある。つまり、どんなクルマでも乗り心地がよい方向に感じられがちなのだ。

BEVならではの低重心と高いボディ剛性

 bZ4X(ソルテラも)のエクステリアデザインは、いわゆるSUVライクなフォルム。かつてのセダンに代わり、いまやSUVが世界の自動車市場の本流であることを思えば、トヨタ第一号のBEVとしては至極当然にも思える。バッテリーを床下に抱えることからも、車高は高いほうがパッケージングとしての整合性も高い。

 プラットフォームは、「カムリ」など上級FF車に使われる「GA-K」プラットフォームをベースとしながら、バッテリーの床下搭載を前提としたBEV専用に開発されたもの。バッテリーをしっかりと守る補強材などと相まって、極めて高い車体剛性を得ていることは、今回の試乗におけるひとつのハイライトとなった。

 面白いのは、ボディサイズも、あるいは見た目までも近い印象を与える「RAV4」との旋回時のロール姿勢の比較写真を資料に載せていること。そのロール量の違いを見ると、じゃあRAV4は良くないの? と思わせるくらいだが、RAV4の名誉のために言っておくと、このサイズのSUVとして、ハンドリングはけっして悪くないレベルだ。つまり、そのRAV4と比べてもこんなにも低重心で、旋回姿勢が安定しているというハナシである。

最大出力はFFが150kW、4WDが合計160kW

 試乗車はFFと4WDの2仕様で、それぞれに18インチタイヤ装着仕様と上級グレードの20インチタイヤ装着仕様が用意されていた。ごく簡単に性能面での諸元を記すと、駆動用リチウムイオンバッテリーの総電力量は71.4kWh。ちなみに「日産アリア」は66kWhである。モーターの最大出力は、FF仕様が150kW、4WD仕様はフロント80kW/リヤ80kW、日産アリアではFFで160kWと似たようなところにある。車重はFFで1920kg~、4WDは2005kg~と2t前後にも及んでしまうのは、BEVの辛いところ。

「先進感」を強調せず誰でも扱いやすい操作系

 乗り込んでみると、エクステリアデザイン同様インテリアデザインも、他社のEVにありがちな過度な先進感の演出はなされていない。ここは評価が分かれそうだが、少なくともスイッチ類は、従来の常識で自然に操作できるものばかりだし、ロータリータイプのシフトスイッチも扱いやすいと思う。

 そのなかで特徴的なのはフードレスのメーターパネルで、ステアリングホイールの上方からすべてを視認できるレイアウトにしたという。なのだが私の場合、残念ながらそうはなっておらず、ステアリングホイールがメーター類を遮らないようなドライビングポジションを求めてくるのだった。

 なぜ? と思えば、トヨタは近い将来ステアリングバイワイヤーの装着仕様を想定している。この際のステアリング形状は、最近のレーシングカーのような上下が扁平に削られた形状なので、最初からそれを折り込み済み、あるいは最重視していたのだろうか。

走行モードはシンプルに2種類のみ

 真っ先にコースインできたのは4WDの20インチタイヤ仕様で、1モデルにつき3周。試乗会前半は4周だったのだが、電力消費状況から3周に変えたという舞台裏ネタも入ってきていた。これもEVの辛いところ。

 走行モードには、ノーマルモードとエコモードの2種が選べるが、じつはこれはスバル版のソルテラが、パワー、ノーマル、エコの3モードとしている点との差異。もうひとつ、わかりやすい違いとして回生ブレーキによる減速度を選べる「パドルシフト」を備えるのはソルテラだけで、bZ4Xはどのグレードでも持たない。

 ここで興味深いことがひとつ。これは後に得た情報ではあるのだが、bZ4Xのノーマルモードはソルテラのパワーモードの制御に近く、エコモードがソルテラのノーマルモードに近い制御という点だ。トヨタもその設定には苦慮したらしいが、ソルテラの3モードに対して2モードとしたなかでの、最終的な落としどころとなったのかもしれない。

ジェントルで自然な加速フィールが好感触

 といっても、ノーマルモードでアクセルペダルを踏み込んだ際の加速の立ち上がりも、これまで経験してきたEVのなかでは、いかにもモータートルクの瞬間の立ち上がりを知らしめるような、後頭部をグイグイとヘッドレストに打ち付けるようなGや、あるいはのけぞり感はほとんどない。あれ、エコモードのままだったかな? と思わされるくらいに。

 むしろ、これはEVの加速特性において、珍しく紳士的な知性を感じさせるとも思えた。やたら瞬間的な強い加速度を強調して、あたかもEVとは音もせず猛烈な加速ができるのが正義、みたいなものが多くて、ちょっと辟易しはじめていたところだったので、むしろホッとさせられたのだった。

 いわば上質な加速感。しかも、ドライブトレーンを左右対称にしたレイアウトで、左右等長ドライブシャフトを採用し、急加速時などの駆動モーターの強力なトルクに対してもステアリングへの影響を抑えるなど、なかなかどうして、見た目やクラス以上に上級車的な走り感をもたらしているのだ。

2L NAスポーツカー並みの加速をラクにこなす

 勘違いしてほしくないのは、遅いというわけではないこと。発表データでも、4WD仕様の0-100km/h加速は7.7秒だ。これに似たようなエンジン搭載車を探せば、たとえば先代のトヨタ86のMT仕様あたり。つまり2L自然吸気エンジン搭載の量産スポーツモデルくらいの加速を、アクセル一踏みで可能にしている。それもラクに超スムースに。

 ただし、FFに乗り換えると、150kWのフロントモーターを前輪だけで受け止めるのはやはり厳しいらしく、ちょっとした加速の際にもトラクションコントロールが介入しがちとなる。前輪の駆動トルクの変動幅も大きいことから、加減速の際のピッチングも大きめとなる。アクセルペダルだけでの減速のコントロールができる「回生ブースト」をオンにしたドライブの際も、ここは気になったところだった。

操縦性の粗さを削ぎ落とした4WDがイチオシ

 ハンドリングは、ソフトで乗り心地重視と思われた足のわりにロール感が少ないのは、まさに謳い文句通り。とくに4WD仕様は、操舵に対して素直にノーズの向きが変わり、その後もリヤ側の適度なトラクションで、安定性を保ちながら狙ったラインへと導いてくれるものだった。ただし、グイグイと曲げていくようなものではなく、ドライバーに諸々の操作を強く意識させることのない自然な動きをもたらしている。

 ここでもFFは、前輪が駆動力を持て余し気味。それゆえに旋回中の挙動変化も大きめとなる。今回の走行シーンにおいては、速く走らせることに興味がなくても、どこにも荒さを感じさせない4WDのほうが圧倒的に印象がよかった。さらに言えば、サーキットのように自ずと前後、左右ともにGが高くなるような環境では、20インチタイヤ仕様のほうが剛性感や安心感ある手応えといった面で好ましい。スポーツ性というより、どっしりとした安定感という意味での好感度である。

トヨタBEVの第一弾らしい超バランス型の仕上がり

 サーキットでの試乗ということで、スポーツ性にも注力したモデルなのかと想像していたのだが、むしろ走りにおいては超バランス型で、極めて真っ当な扱いやすさ、快適性を追求したものだった。そこにはバッテリーの信頼性、寿命を含め、当然としてトヨタならではの信頼性もしっかりと携えてきている。

 考えてみれば、トヨタのBEVの投入はこのあと数多くスタンバっていることは、すでに公表済み。第一号はしっかり受け入れてもらえるものから。飛び道具はいずれ、といったことなのかもしれない。

 

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