繊細かつ確実なペダル操作にはフットウェアが欠かせない
ドライビングテクニックでもっとも重要なのはブレーキ、というのは、どのレーシングドライバーも断言すること。それだけ重要なブレーキは、ご存知の通り足で操作する。ならば、もっとペダルワークしやすい、フットウェアにこだわってもいいのではないだろうか。
ソールが分厚いシューズはNG
ドライビングでは繊細な操作が要求されるわりに、ペダルを操作する足元にはこだわりを持っていない人が多いのではないだろうか。スニーカーで乗っていて問題なくても、じつは操作しやすいシューズに変えると、はるかに操作しやすくなり、その精度を高めることができるのだ。
操作のしやすさを極めたのがレーシングシューズである。特徴はソール(底)が平らで薄いこと。ペタペタのソールだと足裏にペダルを操作する感覚が伝わりやすい。
ペダル操作の支点となるカカトは重要
また重要なのがカカト。基本的にペダル操作時、カカトはフロアに付けるものである。フルブレーキで結果的にカカトが浮くことはあるが、基本的にはカカトをフロアに付けて、そこを支点にして扇形に足先を動かしたほうが、細かい操作はしやすい。とくにアクセルワークはカカトを付けて行いたい。
このときにカカトが断崖絶壁になっていると、フロアに接地したとき安定してくれない。そこでレーシングシューズはソールが大きく、カカト上部まで巻いてあるのだ。
ヒール&トーのしやすさもポイント
また「ヒール&トー」をやりやすいように配慮されているのも特徴だ。ヒール&トーはつま先でブレーキを踏んだまま、カカトでアクセルを踏んでシフトダウン時にエンジン回転を上げるテクニック。最近のスポーツモデルではその操作がしやすいように、アクセルペダルとブレーキペダルの距離が近い。そうなるとブレーキを踏んだまま、カカトではなく、小指の外側あたりでアクセルペダルを踏むこともできる。この足首をひねるタイプのヒール&トーがやりやすいように、小指外側までソールが伸びているのだ。
「レーシングシューズ」と「ドライビングシューズ」の違いは
これはレーシングシューズのみならず、ドライビングシューズでも配慮してデザインされている。レーシングシューズとは、難燃性の素材を使いFIAの規格に合致しているものがほとんどで、合致していないと公式レースでは使用できない。
ドライビングシューズはそういったルールはないので、普通の靴のように履けて、運転がしやすいシューズなのだ。
レーシングシューズは歩くだけですぐ擦り減るので注意
ちなみにレーシングシューズは極限まで操作性を追求しているソールなので、極めて薄い。サーキット内でも履いたままご飯を食べに行ったり、トイレに行ったり、ミーティングに行ったりしていると、あっという間にソールが擦り減ってしまうことがあるので、走る時以外は履かないのがオススメだ。
90年代のレースを戦った某レーシングドライバーによると、当時は排気管がフロア下を通ることで、フロアが異常に熱くなるクルマがあり、夏場の耐久レースでは、レーシングシューズのソールを2重にしてもらっていたが、それでもソールが溶けて足裏にやけどを負ったという。最近でこそ、そういった苦労は減ったそうだが、当時はレースに合わせてシューズを合わせ込むことも珍しくなかったという。
カジュアルかつ運転しやすい普通のシューズも増えている
これまで筆者が履いてきた普通の靴のなかで、もっとも運転に適していなかったのは「NIKE AIRMAX97」である。ソールのほぼ全面がエアクッションに覆われた革新的なモデルで、あの一世を風靡した「AIRMAX95」の翌々年のモデルである。ほぼ全面に空気が入れられていて、どのくらいペダル操作をしているのかがまったくつかめず、すぐに運転を断念した。
逆に運転しやすかったのは「NIKE DUNK HIGH」だ。バスケットシューズだが、エアクッションのないシンプルなソールで極めてレーシングシューズに近い。とくに少し履き込んで全体に柔らかくなってくると、ドライビングにはピッタリ。
最近ではアディダスなどのスポーツメーカーから、ドライビング向けでありながら、タウンユースでも普通にカジュアルに使えるシューズもラインアップされてきており、運転しやすいシューズ選びの幅が広がっている。