乗降性に有利な条件とは
コンパクトカーはボディサイズが小さいから、乗り降りは大変そう……と思うのは間違いだ。コンパクトカーだって背が高くてドアが大きく開き、シートが適切な位置にあれば下手なセダンより乗り降りしやすいクルマがある。両側スライドドアを備えたコンパクトカー=プチバンなら、なおさら乗降性は抜群と言っていい。
一方、コンパクトカーのなかには走りやデザイン、装備などが文句なしでも、とくに後席の乗降性に優れているわけではないクルマもあったりする。
その見極め方は、乗り降りする人が高齢者で足腰が弱っているか否か。身長などにもよるが、(1)ボディの高さ、(2)ステップ高とフロアへの段差、(3)リヤドアの開口部間口、(4)後席のフロアからシート先端までの高さ=ヒール段差、(5)頭上方向の余裕……という5つの項目で決まることがほとんどだ。
【ボディの高さ】
売れ筋のコンパクトカーの全高から低い順に並べると、スバル・インプレッサスポーツは1480mm、トヨタ・アクア1485がmm、トヨタ・ヤリス、マツダ・マツダ2、スズキ・スイフトが1500mmとなる。リヤドアからの乗降性が比較的よいホンダ・フィットは1540mmだ。
両側スライドドアを完備したプチバンと呼べるコンパクトカーではスズキ・ソリオが1745mm、トヨタ・ルーミー&タンクが1735mmとなる。ボディの背が高ければ、リヤドアの高さ方向にも余裕があるため、頭を大きくかがめずに乗り込み、降りることができる。つまり、乗降性に有利ということになるのだ。
【ステップ高】
つぎにステップ高。健常者の乗員なら、SUVの480mm前後のステップ地上高でもなんなく乗り降りできるはずだ。だが、足腰が弱った高齢者ともなれば、ステップはできるだけ低く、フロアへの段差がないことが望ましい。
そこで、上記のコンパクトカーでステップ地上高が高い順に並べると、ヤリス400mm、インプレッサスポーツ380mm、マツダ2 380mm、アクア370mm、フィット360mmという感じだ(すべて筆者の実測)。
【リヤドアの開口部間口】
そして意外に見落としがちなのが、筆者が独自に計測し続けてきた、リヤドアから乗降する際の間口だ。測定方法は、後席シート外側角からリヤドア内張り前端、またはBピラーまでの直線距離で行っている。下半身が出入りする際の開口幅ということになる。
ここが広いほど、乗降のしやすさが増すのだ。それを小さい順に並べると、アクア250mm、スイフト270mm、マツダ2 285mm、フィット320mmとなる(ヤリスとインプレッサスポーツは未計測)。
【後席のフロアからシート先端までの高さ】
もうひとつ、乗降性のキーポイントとなるのが、着座と立ち上がり性だ。いかにリヤドアの開口部が広くステップが低くても、シートから立ち上がるのが難儀では、とくに足腰が弱った高齢者にとっては乗降性のいいクルマとは言い難くなる。
そのポイントなるのがヒール段差であり、それが高いほうが乗り降りしやすいことになる。ローソファに座り立ち上がるのと、食卓のいすに座り立ち上がるのとでは、どっちが楽かと言うのと同じ理屈だ。もちろん、ヒール段差が一部のミニバンの3列目席のように極端に低いと、膝を抱えるような着座姿勢になり、お尻で体重を支えるような着座姿勢を強要され、結果、着座性と立ち上がり性ともに悪くなる。
【頭上方向の余裕】
ヒール段差の低い順では、マツダ2 330mm、インプレッサスポーツ330mm、スイフト345mm、フィット365mm、アクア370mm(ヤリスは未計測)となる。とはいえ、330mm以上あれば、身長172cmの筆者が座った際、膝を大きく抱えるような着座姿勢にはならない(300mmを切ると膝を抱えるような姿勢になりがちだ)。
前席優先でコンパクトカーを選ぶとしたら、ここでの評価があまりかんばしくなくてもまったく関係ない。むしろそのクルマが先進運転支援機能でライバルを大きくリードしているケースもあるから、そのあたりのバランスを取り、後席に子どもを抱いた母親や、足腰が弱った高齢者を頻繁に乗せるか否かで、ここでの実測データを参考にしてもらいたい。カップルズカーとしてなら、後席の乗り降りがしやすいクルマより多少しにくかったとしても、評価を落とすことはないということだ。
もちろん、コンパクトカーを後席の乗降性の良さに特化して選べば、ルーミー&タンクやソリオとなり、背が高くてドア開口部もまた高い。そしてステップが低く、フロアへの段差がない、両側スライドドアを備えたプチバン、コンパクトカーになるのは当然だろう。