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個性派揃いの日産だけに「日陰気味」! ツウだけが名車に挙げる「バイオレット」とは

ブルーバードUとサニーの間を埋めるために登場したクルマだった

 Violet=すみれ。何とも可憐なネーミングのこのクルマの登場は1973年。よく言われるのは、当時の大型化&上級志向化してしまったブルーバードU(610型)とサニーの間を埋めるために登場したクルマだったということや、“710型”という型式、これはブルーバードの型式であること、など。

 車名からしても押しの強さでいうと、ブルーバードやサニーに対してどことなく一歩ひいた、控えめな印象があったのも、そんな出自によるものだったのか。ブルーバードについては、新型のブルーバードUの登場後も、先代の510型が暫く併売される形で残されていたのだった。

 説明のために当時のブルーバードU(610型)とサニー(3代目・B210型)のカタログの写真もご紹介したい。この時代の日産車はスカイライン(4代目・C110型、ケンメリ)然り、ローレル(2代目・C130型)然り、ファストバックでボディも豊かというかふくよかというか、要するに贅肉のついた感じのスタイルがトレンドで、ブルーバードUとサニーも同様だった。

コンパクトといえるクルマに仕上げられていた

 新型車として登場した初代バイオレットもまた、おおらかなスタイリングで登場した。ボディサイズは全長×全幅×全高=4120×1580×1405mm(セダン・1400GL)、ホイールベース2450mmと、510型ブルーバードと較べると、全長は同一、全幅は+20mm、全高は+5mm、ホイールベースは+30mmと若干だけサイズアップ。ふくよかに見えたが510型のサイズを踏襲したかのようなディメンションで、コンパクトといえるクルマに仕上げられていた。

 何を根拠にそう感じたのか今となってはよくわからないが、筆者は当時、週末のディーラーの試乗展示会に出向き、実車の運転席に座って「なかなか手の内に入るボディサイズですね」などと、クルマの側に立つセールスマンとやりとりした記憶が鮮明にある(今思えば、中学生の分際でモータージャーナリストか!? といった感じでもある)。

 インテリアは、今カタログで見返すといかにも懐かしい時代のものだった。スポーティグレードの1600SSS系では、アナログ時計を含めると丸型の7連メーターが眼前に並び、バケットタイプの前席(ハードトップ)や、革のヒモで上部を結んであるマニュアルシフトのシフトブーツなど、1970年代のこの時代らしさに溢れたものだった。

 ボディバリエーションは、4ドアまたは2ドアのセダンとハードトップの構成。セダンに2ドアが設定されていたのもこの時代ならではだが、今、あらためてカタログを見ながら、筆者はこの2ドアセダンの存在をほとんどスルーしていたことを認識した。

 それくらい地味な存在だったということか。ハードトップは前述のとおりローレル、スカイラインの流れを汲むファストバックスタイルだったが、デザインが独自だったこともあり、ミニ・ローレル、ミニ・スカイラインといった言われ方はしなかった。

マイナーチェンジでノッチバックに変更

 そして初代バイオレットの一大事件といえば、途中、1976年のマイナーチェンジでセダンがファストバックからノッチバックにあらためられたことだろう。後にも先にもこれほどのマイナーチェンジは例がないほどだが、後方視界や居住性が良くないといった声がタクシードライバーなどから上がったことがこのマイナーチェンジの理由だとされていた。

 不思議なことにカタログ掲載の図面を見る限り、後席の空間(座面から天井までの高さ)の数値はともに860mmと変わらない。けれどマイナーチェンジ前後を見較べるとリヤドアは完全に作り直され、ガラス窓の面積がは拡大(ドア開口部も拡大)、下辺のウェッジが弱められ、この時には、テールランプとガーニッシュも真一文字の別デザインにあらためられたものを採用している。

 相当な投資となったであろうことは想像に難くないが、そこまでしても実行する必要に迫られての改良だった訳だ。一応、このマイナーチェンジは筆者もリアルタイムで“目撃”していたが、その変容ぶりに戸惑わされ、驚かされた覚えがある。

 なお初代バイオレットに搭載されたエンジンは、1.4Lと1.6L。1.6Lは、高性能盤のSSS系に搭載され、電子制御式とキャブレター仕様があり、電子制御式には当時の日産の排出ガス清浄化システムのNAPSを採用。最終的により厳しい当時の昭和51年排出ガス規制をクリアしたL16E型で、110ps/13.8kgm(電子制御式登場時は115ps/14.6kgm)の性能を確保していた。

 サスペンションのSSS系はリヤに510型ブルーバード譲りのセミトレーリング式(そのほかのグレードはリーフスプリング式)を採用した、4輪独立懸架としていた。カタログには“幾たびも至難のサファリラリーを制覇した、あのブルーバードの熱い伝統が、強烈に息づいています”と記されている。

 なおセダンがノッチバック化された際、“よりラグジュアリーな装備をそなえた”(カタログの表記より)“L”グレードが追加された。その違いを1600 SSS-E-Lと1600 SS-Eとで較べると、間けつ式ワイパー、FM・AMマルチラジオ、カセットステレオ、タルボ型電動式リモコンミラーの4点の有無(程度)だった。

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