初のBEVの試乗会を雪道で行うスバルの意気ごみ
案内が届いた際に、いかにもスバルらしいな、と思ったのは、トヨタとの協業で開発されてきたスバル初のBEV(バッテリーEV)、「ソルテラ」のプロトタイプでの初の試乗会が、雪のなかで開催されることだった。先に、トヨタの「bZ4X」のプロトタイプのサーキットでの試乗会の案内も届いていたので、わざわざ分けて行うということに、意図とこだわりを感じたのだった。
あえて雪のなかでというところからして、ソルテラは、これまで培ってきたスバルAWDの知見、経験がEVにも強く活かされていることと、もうひとつは、「EVは寒冷地に弱そう」といったイメージを払拭したい、という意味合いも含んでいるものなのではないかと。
林道に近い積雪コースにて実用領域の走りを検証
試乗場所である群馬サイクルスポーツセンターは、全体としてひと冬の降雪量が少ない群馬県のなかでは、ひときわ雪の多いみなかみ町にある。ちなみに、約1週間にわたり開催された試乗会の前半は大雪に見舞われたそうだが後半は気温が上昇し、とくに最終日となった私が参加した日は晴天だった。朝一番の枠だったことも幸いして、雪路の状況は比較的引き締まった雪で走りやすかったのだが、時間とともに一部は雪面がザクザクとしてきたり、さらにところどころベチャベチャとしたシャーベット状へと刻々と変化していく。
1周約6kmのコースは、ワインディングというより林道に近い。除雪により雪壁が迫り、コース幅は車幅に対してわずかに1m以内程度に感じられるところから、車幅2台分以上のところまで変化する。それなりにハイスピードで攻めることは可能だが、リアルワールドでの走りを考え、実用領域までをきっちり確認できる程度に抑えることにした。
スバルのアイデンティティとこだわりが詰まった4WD
市販ではFF仕様とAWD仕様が設定されることになっているが、試乗で用意されていたのはAWD仕様のみ。このトヨタのとの協業において、スバルの強みがもっとも発揮されたのは、AWD制御の在り方であることは間違いなく、まずはその点をしっかりと確認してもらいたいということもあるだろう。
外観では「86」と「BRZ」との差以上に、顔つきもリヤのコンビランプデザインも、bZ4Xとは変えられている。水平対向エンジンの対向するピストンをイメージしたCシェイプのライト造形が、エンジンを持たないソルテラにも採用されているのは微笑ましくも感じさせるところだが、近年のスバルデザインのアイデンティティとなっているのは否定しない。
足元の寒さ対策はもうひと工夫ほしい
この日の気温は最高でも4度程度までだったが、日差しがあり、車室内ではとくに上半身はそう寒くない。となると、暖めて欲しいのは足元なのだが、bZ4Xで採用される下脚部の周りを暖める輻射熱ヒーターを持たない。ソルテラでは、代わりに前後席にシートヒーターのヒーター採用部位面積を増やしている。
どちらもありがたいのだが、寒冷地での足元、とくに足先の寒さや冷たさには対応できていない。現実的な話として、靴底に雪がへばりついていた際に溶けにくいので、それを要因としてペダルが滑るといったことも起こりうる。このあたり、BEVの弱点でもある寒さ対策としてもうひと工夫望みたいと思う。
最低地上高はbZ4Xより+10mmの210mmを確保
バッテリーを床下に抱えることから、実質的な床面が高くなることは避けられず、とくに後席は座面高と床面との距離が短く、膝が急角度で立つ姿勢で着座することになり、座面に接する腿部位が短くなってしまう。もちろんこうした点はトヨタbZ4Xも同様である。
しかしながら、こうしてバッテリーを床下に押し込めながらも、最低地上高を210mm確保してきているところが、スバルらしいこだわりとも思える。ちなみに、「スバル・フォレスター」は220mm、「トヨタRAV4」は仕様により190~200mmだ。今回は、深い轍(わだち)ができてしまっていた試乗コースにおいても、ほとんど床面が接することなく安定して走行でき、しっかりと確保された最低地上高は心強かった。一方で、ホイールベースは2850mmとフォレスターより180mmも長いので、厳しいことを言えば、ランプブレークオーバーアングルでは、少し苦しくなることになる。
自然な感覚の奥にドライバーが制御する領域を残す
走り出すと、まずは雪上におけるスムーズな発進性に感心させられる。モーターの最大出力は前後とも80kWだが、基本的に発進時は後輪側の駆動を強めて、リヤからの蹴り出しを重視。直進時はそこからすぐに前後均等に近い駆動配分へと変わり安定性を高めていく。
そこでのモーターによる駆動制御の強みが、発進と同時に各車輪速を正確に把握し、そこにドライバーの操作に見合う駆動力を過不足なく与えること。いわばミューの低い雪上でも、発進時の最初のズルッとかシャーといったタイヤの空転感がほとんどなく動き出す。ザクザクの深めの雪でも、その抵抗でなかなか動き出せないというもどかしさや、そのためにアクセルを深く踏み込んでしまって、逆にトラクションコントロールに出力を絞られ過ぎてしまう、といったことにもならないで済んだ。
前後モーターの駆動配分を緻密に行っている様子は、インパネのモニター上で知ることができるが、コーナーの進入に際してはフロント側を少し弱めて舵の効きを確保。旋回中は後輪からの押し出しが過剰にならないよう、その上で舵が効くように適時、前後駆動配分を制御している。さらに必要に応じてブレーキLSDが介入して、そこで内輪のトラクション抜けを抑えてくれている。
ただし、トルクベクタリング制御は入れていないので、不自然に鼻先がイン側に入り込むような感覚は一切起こさない。このあたりもスバルの考え方なのか、自然な感覚の動きをもたらし、あとはドライバーに制御してもらう領域を残しておく、といった感じだ。
サスペンションは、bZ4Xより若干絞められた印象だが、今回のような一部硬い雪で荒れた路面においては、むしろバネ上の揺れが少なくて済む。一方で、操舵力は軽めなのだが、雪路での評価は難しいところだった。
加速も回生による減速もジェントルに抑えている
ドライブモードは、bZ4Xのエコとノーマルに対して、 ソルテラがエコ、ノーマル、パワーの3つを選べる。けれども、bZ4Xの試乗記でも触れたように、その制御はbZ4Xのエコがソルテラのノーマルに、同様にノーマルがパワーに近いという話をスバルの開発者からは伺っている。
そのパワーモードにしても、続々登場してきているEVに少なくない、背中を蹴らるような一瞬の強烈な加速度をもたらすようなものではなく、雪のなかでもパワーモードで乗れるじゃない、というくらいの紳士的な特性になっている。加速を求めた際に、十分に速いけど暴力的ではないレベル。ここは、スバルだけの意図というわけではないだろうが、それこそbZ4Xとソルテラの狙いが知れる。
さらに、「Sペダル」と呼ぶ回生を利用したいわゆるワンペダルモードは、低速域でアクセルペダルを全閉にした際でも最大マイナス0.15Gまでに抑えられている。さらに言えば、完全停止まではしない。減速度を抑えているのは、ひとつはアイスバーンのような低ミューでの意図しない車輪ロックを避けるため。完全停止としていないのは、ドライバーに車両を止めるという行為を意識して操作してもらうため、とのこと。各社に考え方があり、どれが正しいのかは難しいところではあるが、スバルのこの考え方は、どちらも理に適っている。
bZ4Xには備わらないパドルシフト使用時は、Sペダルは作用しない代わり、回生による減速度(これも最大マイナス0.15G)をコースティングも含めて4段階から選べる。エンジンブレーキ的に軽い減速を求めたいとき、段階的に減速度選べるのは便利だし、意思を込めた操作感を得られるのも好ましい。
シビアな路面状況ではX-MODEが心強い
最後に、スバルのX-MODE(bZ4Xにも備わる)は、イザというときにありがたい装備である。しかも、フォレスターなどエンジン車では、アクセルコントロールに気を使いながら、飛び出しに気をつけたりするものだが、BEVのソルテラでは、駆動輪の空転時間がごく短いままに脱出できる。さらに、グリップコントロールと呼ぶ、極低速を一定に維持するシステムを加えたことで、シビアな路面状況のなかでもステアリングの操作に集中できるのがいい。
GR86とBRZでは、トヨタが開発の最後の最後でスバルとは違う走り味を求めることになったが、ソルテラにはBEVでもスバルらしさをしっかりと走りにも盛り込みたい、という意思が強く現れていた。ならばこそ、ソルテラは思いきってAWD版だけでもよかったのではないか。試乗を終えた今、そうも思えてきている。