アスファルトのない広大な大地を自由に走る
イギリスの「プロドライブ」社は、世界初の全地形対応型ハイパーカーを名乗る「ハンター」を市販すると発表した。これは今年1月のダカールラリーでセバスチャン・ローブが乗った競技用マシンより50%パワーアップし、インテリアやシートなどを快適な仕様にした公道仕様。砂漠、砂丘、山岳地帯の荒れたコースなど、過酷な地形を高速で横断する比類のない能力を備えているという。価格は125万ポンド(約2億円)。
ローブが今年のダカールラリーで走ったマシンの公道仕様
かつて名選手アリ・バタネンのコ・ドライバーとしてともにフォード・エスコートに乗り、1981年のWRCで優勝したことで知られるデビッド・リチャーズ。彼が1984年に創立した「プロドライブ」は、レーシングカー・コンストラクターとしてサーキットからラリーまで幅広いレース活動を展開している。
2022年1月の「ダカールラリー」では、WRC王者に9度も輝いているセバスチャン・ローブが「プロドライブ・ハンターT1+」をドライブし、総合2位を獲得。この競技車両をもとにした市販車のデビューに際して、プロドライブのデビッド・リチャーズ代表はこう語る。
「ハイパーカーは数多く出回っていますが、その性能を発揮するためには良い道やサーキットが必要です。私たちは、世界のある地域、とくに中東には、アスファルト舗装路ではアクセスできない、広大な土地がまだまだ残っていることに気づきました。そこでこれまでのオフロードカーとは一線を画した性能で、どんなところでも冒険できるクルマをつくろうと考えたのです」
3.5L V6エンジンは600ps、0-100km/h加速は4秒切り
今回発売された公道バージョンの「プロドライブ・ハンター」は、ダカールを走った競技車両のエンジン、ドライブトレーン、サスペンションなどを基本的には継承している。ただし競技のレギュレーションに準拠する必要がないため、フロントミッドに搭載される3.5L V6ツインターボエンジンはさらにチューニングされ、最高出力は50%アップして600ps、最大トルクは700N・mを実現している。
また、シーケンシャルマニュアルギヤボックスは6速のパドルシフトとして、シフトチェンジは数ミリ秒。これによって、4輪駆動車であるハンターの0-100km/h加速は4秒未満、最高速度は300km/h近くになるとのことだ。
オフロードの走破性と速度に特化した足
ハンターのシャシーは高張力鋼によるスペースフレームで構成され、コックピットはFIA基準のケージが乗員を守る。ボディはリサイクル素材を含む軽量なカーボンコンポジットで作られ、車両重量を抑えながら、重心位置と重量配分を最適化しているという。
サスペンションは4輪ともツイン・アジャスタブルダンパーを備えたダブルウィッシュボーンで、サスのストロークは競技車の350mmから400mmに増加させ、なめらかな乗り心地と走破性をさらに高めている。また、ブレーキは6ポットキャリパーとベンチレーテッドディスクを採用。タイヤは、舗装路よりも荒れ地や砂地でのグリップに最適化した特注の35インチオフロードを履く。
デザインは名匠イアン・カラムが手がける
ジャガーやアストンマーティンのデザイナーとして名高い、イアン・カラムがジャガーを引退後に自らのデザイン会社を立ち上げ、このプロドライブ・ハンターの内外装のデザインを手がけているのもトピックのひとつ。
コックピットはデイリーユースに合わせて新たにデザインされ、センターコンソールに操作系を集中させ、カーボンファイバー製シートには6点式シートベルトが装着されている。また、アドベンチャーカーということで480Lもの容量がある燃料タンクはセーフティシェル内に収容され、デュアル消火システムを備える。
競技マシンより速くて高性能なハイパーカー
プロドライブ代表・デビッド・リチャーズは言う。「ハイパーカー・ハンターは、可能な限りオリジナルに近づけるようにしました。ローブのダカールカーで砂漠を走破するような体験ができる一方で、ロードカーの快適性も備えており、自宅から街なかを走り抜け、いつでもどこでも、好きな目的地へ行くことができるのです」
目下、最初の開発車両は中東でお披露目ツアーを行っていて、生産車両の納車は今年の後半からを見込んでいるとのことだ。価格は125万ポンド(約2億円)。砂漠地帯の大富豪なら、並みいるハイパーカーよりこちらのほうが楽しめることだろう。