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911よりも安くて庶民でも買えた! ボクスターのご先祖「ポルシェ914」とは

ビートルのエンジンをミッドシップに搭載した「2シーター・スポーツ」

 ポルシェと言えば「やはりリヤエンジンの911がいいね」とか「いやミッドエンジンのボクスターも悪くないよ」と意見はなかなか喧しいことになります。そんなよくできた長男と、やんちゃな末弟たちにスポットの当たることは多いのですが、かつて911の弟分として登場したミッドエンジンの914というモデルが存在しました。

 一家の家計を支えた次男坊のことが、いまさら話題になることはなくなりました。しかしその魅力たっぷりで、今も根強いファンが少なくないといいます。今回はそんなポルシェ・ミッドエンジンの元祖、ポルシェ914を振り返ることにします。

ポルシェ自身が企画したプアマンズ・ポルシェ

 フェルディナント・ポルシェ博士が進歩的な大衆車のフォルクスワーゲン・タイプI、いわゆるビートルを誕生させると、そのビートルをベースに、博士の息子、フェルディナント・アントン・エルンスト・ポルシェ、愛称“フェリー”が2ドアクーペ/ロードスターのスポーツカー、ポルシェ356を製作。

 さらに“フェリー”の息子、博士の孫にあたるフェルディナント・アレクサンダー・ポルシェ、愛称“ブッツィー”は、その356を進化させた高性能スポーツカーのポルシェ911をデザインしています。これまでに何度も紹介した通り、これがポルシェの本流となっているのは周知の事実。  そしてスポーツカーの本流を歩んできたポルシェ911は、今やスポーツカーのアイコンと位置付けられるまでになっています。もちろん、川の流れには本流だけではなくいくつもの支流があります。911が誕生した際には、高性能を追求したがゆえに356に対して販売価格が大きく引き上げられてしまいました。それを補うために、登場したのが912でした。

 少し乱暴に言うと、911のボディに、フラット6ではなく356に搭載されていたフラット4を搭載したもの。結果的には価格が抑えられただけでなく、911のテールヘビーが軽減され、ハンドリングが好ましくなったと高い評価も得ていました。

 そんな912の後継モデルとして1970年に発売されたモデルが914でした。これも乱暴に言い切ってしまうと、ビートルのエンジンをミッドシップに搭載した「2シーター・スポーツ」でした。このことからワーゲン・ポルシェと呼ばれていました。

 ポルシェにしてみれば、911よりもはるかに安価なポルシェ914によって、ポルシェとしての総計での拡販が見込めるのは大きな魅力でした。

 フォルクスワーゲンにしてもビートルの販売が伸び悩んでいたものの、まだゴルフが登場するまでには間があり、スポーツカーの名門であるポルシェのブランドイメージで拡販できる新型スポーツカーは大歓迎、という想いがあったようです。

 そんな“大人の事情”はともかく、一般庶民でも買うことができたミッドエンジンのポルシェ。これだけでも十分に存在理由があると思うのですが、いかがでしょうか。

 ちなみに、ビートル用の1.7Lフラット4を搭載したポルシェ914に加えて、ポルシェ911Tに搭載されていたポルシェ製の2L水平対向6気筒エンジンを搭載したポルシェ914/6もラインアップ。モデルライフの後半にはフォルクスワーゲン製の2Lフラット4エンジンを搭載したポルシェ914 2.0もラインアップに加えられていました。

水平対向4気筒から6気筒、8気筒と幅広いラインアップ

 それではポルシェ914と914/6、914 2.0のハードウェアについて紹介していきましょう。エンジンは先に触れたように、フォルクスワーゲン製のプッシュロッド水平対向4気筒(フラット4)でした。

 これはフォルクスワーゲン・タイプ4(市販時のモデル名はVW412E)に搭載されていた電子制御の燃料噴射システムが組み込まれたW型の1679ccユニットで、最高出力もVW412Eと同じく80psを絞り出していました。

 ちなみに同時に発売された914/6はポルシェ製SOHC水平対向6気筒(フラット6)の、901/36型の1991ccユニットで、最高出力は110ps。また1972年に914/6に切り替わる形で登場した914 2.0は、フォルクスワーゲン製プッシュロッド・フラット4のGB型1971ccユニットで、最高出力は100psでした。

 そのほかにもフェリー・ポルシェの60歳の誕生日にプレゼントされた、914-8と呼ばれる特別モデル(2台のみ製造)には、何とレーシングプロトタイプの908に搭載されていたツインカム(4カムシャフト)水平対向8気筒(フラット8)の2997ccユニットが搭載されていました。さすがにロードゴーイング用に再チューンされていて、レース仕様350psから300psにパワーダウンしていましたが、1150kgと軽量なボディには充分だったようです。

 ボディは基本的に1種類で、ルーフトップが外せる、タルガトップ仕様2ドアクーペのモノグレード。モノコックフレームのキャビン後方に、フラット4/6/8のエンジンが搭載されていました。

 そしてサスペンションは、フロントが911から転用したトーションバーと組み合わせたストラット式。リヤはフォルクスワーゲン・タイプ4用のトレーリングアーム式で、ポルシェの量販車としては初めてトーションバーではなくコイルスプリングを使用していました。

 ブレーキは4輪ディスクで、914/6ではパワーアップに対応してサスペンションとブレーキが強化され、ホイールハブも911用が採用。そのためにオリジナルの914ではホイールが4穴でしたが、914/6では5穴となっていました。

 これは両車を識別するポイントともなっています。フロントのボンネット下とリヤのエンジン後方にはトランクスペースが確保され、エンジンリッドの下には、外したルーフが格納できるようになっていて、気軽にオープンエアーを楽しむことができるようになっていました。

 しかし、純粋な2シーターということで、メインマーケットと考えられていた北米では苦戦。それが大きな理由となり、1969年のデビューから1976年まで、8年の短いモデルライフの末、924にバトンタッチしています。

 苦戦の理由には、スタイル(エクステリアデザイン)が芳しくなかったとの声も聞かれましたが、デザインの好みは十人十色。やはり純然たる2シーターで、コートなどの手回り品を置くスペースもなかったことの方が大きな理由だったのではないでしょうか。デザインの好き嫌いはともかく、個人的にはそう判断しているところです。

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