「ボーラ」のシャシーで「カウンタック」と同じ低さを実現
それでいてマセラティ・ブーメランのパワートレインは、完全に市販車のそれと一緒だった。挟み角90度のV8・4719ccエンジンをZF製5速MTトランスミッションに組み合わせ、ミドに積むシャシーは「マセラティ・ボーラ」に基づくというか、まったく同じ。ホイールベース2600mmまで同じで、ジウジアーロとしては相当に市販化の期待をかけていたに違いない。
むしろ前年の1971年から生産が始まり最終的には600台弱がラインオフしたボーラを、純粋にデザイン&空力を違えるだけでパフォーマンスを高めた別バージョンと、捉えていた節すらある。しかも先述の1070mmという車高は、奇しくもカウンタックと同一値でもある。
70年代スーパーカーたちの原型というべき美しさ
だがスーパーカーではあるが、スポーツカーというよりGTであり続けるマセラティとして、限られた居住性はネックだった。加えてエンジン屋として、エンジンでない部分でパフォーマンスが向上するであろうストーリーも、プライドが許さなかったのかもしれない。かくしてブーメランは、その特徴や存在理由そのものが、ブーメランとなって、ワンオフのコンセプトで終わってしまった。
だが、その後も「メラク」に「カムシン」、ライバルを見渡せば「ランボルギーニ・ウラッコ」に「デ・トマソ・パンテーラ」、「ロータス・エスプリ」、「デロリアンDMC-12」まで、ウェッジシェイプの市販モデルの居住性は著しく向上した。
あのカウンタックだって市販はブーメラン発表に遅れること2年後の1974年だ。60年代末のウェッジシェイプのコンセプトカーなどと比べると、その進化は明らかだった。だからこそ、マセラティ・ブーメランは次の時代の美を作り出したという意味で、今も鮮烈なのだ。