エンジンから発生する負圧で燃料を吸い上げ混合気を供給する
昨今のクルマは燃料供給装置が電子制御式のインジェクションだが、旧車はキャブレターだった。キャブレターのままでは排出ガス規制をクリアすることが難しくなったので、電子制御式のインジェクションが普及していったのだ。
アナログなキャブレターは時代の流れで淘汰されていったわけだが、もはや“キャブ車”を運転したことがないという人が多いと思うので、あらためてキャブレターとは何なのか? ということを説明したいと思う。
端的に書くと、電気を使うことなく作動させることができるキャブレターは、空気が発生させる負圧を利用して燃料を吸い上げ、エンジン内に空気とガソリンを混ぜ合わせた混合気を噴射している。この書き方だと、なんのことだか分からないと思うので、もっと詳しく解説しよう。
キャブレターは流体力学におけるベンチュリ効果を利用し、エンジンから発生する負圧で燃料を吸い上げ、混合気を供給する仕組みになっている。ベンチュリ効果というのは、流体の流れを絞ることによって流速を増加させると、圧力が低い部分が作り出される現象のことだ。
別の言葉(実際の動作)で説明すると、ピストンがシリンダー内を降下したときに吸い込もうとする空気の量に合わせ、混合気を作っているのがキャブレターの役割である。
流体の流れの断面積を狭くすると流速が増加することは、ホースで水を撒くときに先端を細くするとピュ~っと遠くまで飛んでいくことでイメージできる。これと同じような現象になるようにキャブレターの内部はくびれた構造になっており、そこで加速する流速によって発生する負圧を利用しているのだ。
空気は気圧の高いほうから低いほうに流れていくので、気圧の高い燃料ホース側から気圧の低いエンジン側へと向かうのであった。
キャブレターのセッティングは想像以上に難しい
じつにシンプルな原理なのだが、エンジンの回転数が変わることにより負圧も変動するので、キャブレターは低回転用、中回転用、高回転用という3つのジェットを使い分けている。そう、ちょっとだけ複雑なのだ。低回転=アイドリング付近をスロージェット(パイロットジェットとも呼ばれる)、全閉と全開の中間にあたるアクセル中開度付近をニードルジェット、アクセル全開付近をメインジェットが担当している。
担当している=燃料の供給量を決めているということで、スロージェットとメインジェットは穴の大きさによって量を決定。爪楊枝のような形状をしたニードルジェットはメインジェットに刺さっている。アクセルの開度に応じてニードルジェットが持ち上げられるとメインジェットの穴の隙間が拡がり、燃料の供給量が増える仕組みになっている。
つまり、吸い込まれる空気の量が少ないとき、燃料はスロージェットから吸い上げられ、空気の量が多くなるとメインジェットから吸い上げられた燃料によって混合気が作られているということである。そして、スロージェットの受け持ち範囲よりも、さらに空気の量が少ない領域で仕事をしているのがパイロットスクリューもしくはエアースクリューだ。
パイロットスクリューはスロットルバルブ(ベンチュリ部とも呼ばれる。この部分の吸気口断面積がキャブレターの大きさを決めている)よりもエンジン側に組み込まれており、空気とガソリンが混ざったあとの混合気の量を調整できる。エアースクリューはスロットルバルブよりもエアークリーナーボックス側に組み込まれており、ガソリンと混ざる前の空気の量を調整可能だ。
パイロットスクリューの戻し回転数が規定値よりも多ければ、吸い出される混合気が増えて混合比が濃くなり、逆に戻し回転数が少なければ混合気の量が減少して混合比が薄くなる。その一方でエアースクリューの戻し回転数を多くすると、ガソリンの量が一定でキャブレターが吸い込む空気の量が増えるため混合比が薄くなり、戻し回転数が少なければ空気の量が減るため、混合比が濃くなる。
また、アクセル全閉時のエンジン回転数を決めるアイドルストップスクリューというモノもあり、このネジを締めるとアイドリング時の回転数が上がり、緩めると下がる。こちらもエンストしないように調整しなくてはならない。