ギクシャク感を解消するVWのDSGが登場しDCTが主流に
それを克服したのがフォルクスワーゲンのツインクラッチ式のAMTで、ゴルフ5に搭載されて登場したDCT(デュアルクラッチトランスミッション:VW名はDSG)はギヤボックス内にふたつのギヤボックスがあり、MT構造がベースながら変速ショックが少なく、クリープ現象もあることからトルコンATのように運転することができる。
このDCTはポルシェのレーシングカーから始まるのだが、1速と3速と5速とリバースのギヤボックス、 2速と4速と6速用のギヤボックスをひとつにしたことで、2速から3速にシフトアップする際には3速のクラッチが準備をしており滑らかな変速を実現。根本的な機構はMTなので効率の低下も少なく、これこそ新世代のATだと期待を集めて現在でも人気の変速機となっている。かつてポルシェはトルコンATを発売したが、現在はお家芸のDCT、ポルシェ名ではPDK(ポルシェドッペルクップリング)として多くのモデルに採用されている。
商用トラックのAT化によってトルコンATの多段化が急激に広まる
そんな時代に、新世代のディーゼルが注目を集めている。ガソリン車は高回転で本領を発揮するエンジンが多いが、ディーゼルは低回転の豊かなトルクが魅力で逆に高回転は苦手分野。それにトルコンATを組み合わせるとなるとAT側の進化が必要で、新世代ディーゼルの登場に合わせてトルコンATもさらに進化していく。結果的にトルコンATのトルク対応はディーゼルの大トルクに応える性能を確保することができ、ディーゼルの美味しい部分、つまり低回転域の豊かなトルクのみで高回転をなるべく使わないようにするため多段化が図られた。
例えばディーゼルが本領を発揮しながら環境にも優しい回転域が3000rpmまでだったとしよう。そこで40km/h〜200km/hまでの速度に対応しようとすれば、ギヤ数を増やすことが一番の対策であり、こうして商用ディーゼル車の多段化が加速していった。
ガソリン車ではせいぜい6速もあればおおよその速度がカバーできたわけだが、ディーゼル用もガソリン用も同じトランスミッションが流用できればコストは下がる。そこでディーゼルが下火になるなかでも開発費用を回収することも含めて、ガソリン車でも多段化したATが搭載されるようになる。折しもガソリン車では、排気量を適正に抑えたターボ化(ダウンサイジングターボ)が当たり前の時代となり、低回転域のトルクが豊かになったことで渡りに船。ガソリン車でもトルコンATの多段化の恩恵を受けることとなる。
それはE36時代からATを実現するためにAMTを使っていたBMW M3が、現行M3&M4でトルコンATを初採用したことから明らか。トルコンAT自体もシフトショックが少なくて、ロックアップクラッチ領域の拡大などによって効率が上がっており、燃費への影響が抑えられるようになったことも重要なポイントだ。電子制御だから変速ショックはメーカーの思想で変えられるし、ダイレクト感を残した変速も、逆にいつ変速したのかドライバーに気付かせないようなセッティングもできる。つまりトルコンATは今もなお進化し続けている。
いまでは10速も登場するトルコンATの多段化はどこまで続くのか!?
昨今では8速ATや10速ATを搭載したモデルが増えているが、この日本で必要だろうか? と思う次第。 車種によってはその必要がない場合がほとんどだろう。しかしギヤの数が増えたおかげで、エンジンの本当に効率が良い回転数を使うためにはある程度のギヤ枚数があったほうが良いわけで、日本の速度域では8速あたりが上限となるのかもしれない(世界中で販売されるモデルは10速などが当たり前になるかも)。
近年カタログに「世界初とか最新の……」という魅力あるフレーズがない時代。4速ATよりも8速ATのほうが優れているような期待を抱かせる部分もある。ATをマニュアルモードで走るドライバーは少ないとは思うが、多段ATであればマニュアルシフトで走るのも楽しみのひとつになるだろう。それはそれでワクワクするので、環境性能を重視した結果生まれた多段ATだが、これからさらにどんな進化を続けていくのか注目したい。