「急」のつく運転操作はミッドシップカーに不向き
ミッドシップカーは、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)に比べ、サーキットでの運転が難しいとの声があるようだ。しかし、そのようなことはない。同様に、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)やRR(リヤエンジン・リヤドライブ)についても、難しいと言えばそうともいえるし、理解して運転すれば難しくないともいえる。人によって、得手不得手はあるかもしれない。
ミッドシップが難しいと語られる背景と予想されるのは、ミッドシップカーは前輪と後輪の間に、運転者や動力源など重い物が収まる形態なので、車両運動の面で慣性の影響を受けにくい。したがって操作に対する応答が早いことだ。慣性とは、一度勢いがつくと収まりにくいことを指す。たとえば重たいものは、動かすには大きな力が必要だが、一度動いてしまえば勢いがついて、今度は止まりにくくなるような様子をいう。
ミッドシップカーに比べ、FRやFF、RRのクルマは、前後タイヤの外側にエンジンなどが載っているため、運転操作に対しクルマの応答が遅れる。このため、急な運転操作をしてもすぐには反応しないので、時間的遅れがあることにより俊敏さが劣り、運転しやすいと勘違いしやすいのだと思う。
またミッドシップカーは、フェラーリなど数千万円もするスポーツカーなら存在するが、かつてのトヨタMR2やMR-Sのような身近な価格で手に入れられる車種がなくなったので、多くの人にとって縁遠くなっているのもひとつの要因だろう。
応答の速さに慣れていれば思い通りの運転が楽しめる
運転操作に対し応答が速いミッドシップカーは、逆に運転しやすく、思い通りの走らせ方ができる。ただし、その応答の速さに慣れていないと、驚いたり難しいと感じたりするかもしれない。しかし人間は、新しい環境に案外早く適応できる能力がある。したがって、ミッドシップカーの応答に慣れれば、それを活かして運転をより楽しめるはずだ。
それには、急ハンドルや急アクセルといった、「急」のつく運転操作はミッドシップカーに不向きだ。といっても、多くの人が、「自分はそんな急ハンドルや急アクセルのような運転はしていない」と思うだろう。ところが、公道を走る多くの運転者の操作は、そういう傾向を持っている。
たとえば、カーブでハンドル操作の遅れによって慌ててハンドルを切るので、切り込み過ぎて戻す操作が追加されたり、前を走るクルマの動きばかりに目がいっているため、ブレーキランプが点灯するまでアクセルペダルを踏み続け、車間距離が急に縮まってブレーキで減速し、それが速度の落し過ぎを招いて今度は慌ててアクセルペダルを踏み込んだりする様子が多く見られる。
それらは、運転者自身は急ハンドルや急アクセルをした意識はないはずだが、結果的に急な操作になったり、余計な運転操作が追加されたりしている。短時間に余計な操作が追加されれば、それは「急」のつく操作の元になる。
滑らかで無駄のない操作を身に着けるには、カーブに入ってからハンドルを切るのではなく、カーブへ向けてハンドルを切り始める。直線路になってからハンドルを戻すのではなく、カーブから直線へ向かってハンドルを戻し始める操作を心がけるとよい。