エンジン内部とミッションはノーマルのまま筑波58秒311をマーク
2021年10月に発売されたばかりの最新FRスポーツカー「GR86/BRZ」は実際どれだけ速くなるのか? すでにチューニングパーツメーカーの雄「HKS」はGR86で筑波サーキット58秒311をマークしている。なぜそんなに速いのか、どうしたらそんなに速くなるのか、HKSのアタックマシンの速さの秘密に迫りながら、最新チューニングの考え方を学んでみよう。
STEP0:ライトチューンでも1分5~6秒
GR86でさっそく筑波タイムアタックに挑んでいるHKS。だが、タイムだけを追い求めた仕様ではなく、GR86の良さを高めるために、ノーマルを活かしたチューニングを行っている。そこで、このアタックマシンの仕様とその変化からタイムの伸びを追っていけば、どのようなチューニングをしていけば、どのような効果があるのかが見えてくるというわけだ!
ちなみに、ハイグリップラジアルタイヤ+吸排気+サスペンション交換程度のチューンだと、プロドライバーが乗って筑波1分5~6秒くらいが標準的なタイム。それでも十分速いのだが、HKSのGR86は異次元の速さを実現している。
STEP1:軽量化+Sタイヤ仕様=1分1秒855
軽さを手に入れていきなり1秒台をマーク
まず最初はエンジンノーマルのままで、吸排気チューン、サスペンション、Sタイヤを組み合わせた仕様で、1分1秒855をマークしている。1分1秒台といえば、ちょっと前ならフルチューンでもおかしくないタイム。では、なぜそんなに速いのか? もちろんタイヤの性能と、HKSの吸排気によるパワーアップとサスペンションによるハンドリングがある。
そして、タイムアタックマシンに欠かせない要素が「軽さ」だ。STEP1の時点で内装はフルストリップ。地味ではあるが助手席のシートを外し、リヤシートも外す。これだけでも20~30kgの軽量化になる。こうした積み重ねでクルマを軽く仕上げていくことで、軽いクルマは加速も減速も、コーナリングも速くなる。
STEP2:エアロパーツ+ワイドボディ=1分1秒286
空気を味方につけて一気に0.6秒短縮
次の仕様は中身はほとんど変わらぬまま、オリジナルのエアロを装着。リップスポイラーおよびカナードとウイングを装着することでダウンフォースを獲得し、空気を味方に付けた。ワイドボディによるワイドトレッド化も施され、タイヤは235/40R18から295/35R18に超ワイドタイヤ化。グリップ力の底上げと、ダウンフォースの獲得でドンとタイムアップを果たした。
このワイドトレッド&ワイドタイヤと空力を味方につけるのも、現在ではアタックマシンのスタンダードだ。
STEP3:ターボ化でパワーアップ=59秒585
エンジン内部はノーマルのままターボを追加
軽さとグリップ力を手に入れたHKS GR86。となると次はパワーだ。HKS得意のハイパワーチューンを施したいところだが、GR86の新型エンジンはまだどれくらいの耐久性を持つかわからない。
そもそもGR86では、ECU(エンジン・コントロール・ユニット)の書き換えがまだできないので、ターボ化に合わせたエンジン制御はサブコンピュータの「F-CON iS」とブーストコントローラーの「EVC」を組み合わせている。そういった事情もあり、ブースト圧は0.3kg/cm2ほどと決して高くはない。大幅パワーアップとまではいかないが、それでも1.6秒ものタイムアップを果たしてきたのは、そのほかの部分の細かい煮詰めの成果でもある。
STEP4:空力バランス見直し+ブースト圧アップ=58秒311
ダウンフォースを整え、パワーを引き出す
一気に1秒以上もタイムを短縮したが、制御の見直しによるパワーアップと、エアロパーツの改良がメインの改善点。このレベルまでいくと、ちょっとしたことでもタイムは大きく変わる。なにかひとつのピースが欠ければ一気にタイムは落ち、逆にすべての塩梅とタイミングが整うと、ポンと実力を発揮できる。その結果が58秒311という驚きのタイムである。
これでもエンジン内部はノーマル。ミッションもノーマル。ボルトオンターボにワイドボディ+空力チューンだ。すなわちここにさらなる500psや600ps、もしくはそれ以上のパワーが備わった日には、大幅なタイム短縮も期待できそうだ。