シンプルなデザインこそクルマの個性を引き立てた
世の中には何にでも“流行”がある。ファッションでいうと、大昔、半袖のポロシャツの襟を立てて着るのが流行った時期が1980年代頃にあって、今でも稀にそういう人を見かけるとほぼ決まっていい年齢のオジザンだったりする(=筆者もやってしまいそうになることがときどきある)。
小振りのクラッチバッグを小脇に抱え、長袖のピンクのセーターを首に巻いて羽織っていたりすれば、もう完璧である(さすがにレノマのバッグはもう持っていないだろうが……)。
まあ歴史が繰り返されるとは文字どおり有史以来言われてきたことだから、そういうオジサンのスタイルがふたたび“ナウい”ものとしてリバイバルする可能性は排除できない。ベルボトムのジーンズなどその好例だ。
クルマにも流行はある。今回取り上げる、カクカクした直線基調のスタイリングもそのなかのひとつだ。ザックリというとクルマのスタイリングの流れは直線と流線型が交互に繰り返されるところがあって、そこに時代の進化分の技術、エッセンスが盛り込まれていく。たとえば同じ流線型でも、もともとは情感に任せたデザインだったのに対し、後年、空力の要素、理論に基づいたデザインに進化を遂げた。
サッパリとクリーンな直線基調のスタイルだったキャデラックとレガータ
それに対して直線基調は、これまたザックリというと今も昔も直線基調は直線基調……そんなところもある。写真はその一例だが、アメリカのキャデラック。エセックス・リムジンは全長6940mmのリムジンだったが、超フォーマルゆえ1990年代までこのスタイルで通していたし、もう1台、フィアット・レガータなどは、1980年代の欧州小型車の典型だった、サッパリとクリーンな直線基調のスタイルだった。
セダン以上に印象的なモデルが多かったトヨタ車
一方で国産車では、概ね1970年代の終わりから1980年代いっぱいあたりが“直線基調車”のピークだった。トヨタ車でいうとフラッグシップだったクラウン(6代目・1979年)を筆頭にコロナ(7代目・1982年)、セリカ(3代目・1981年)、セリカXX(1981年)、カリーナ(3代目・1981年)などがそう。カリーナはとくに3ドアクーペのエッジを効かせた直線フォルムがセダン以上に印象的だった。
また、ミドルクラスのトヨタ車で初のFFとして登場、広い室内空間を誇った初代ビスタ&カムリ(1982年)も気持ちのいいほどの直線基調でクリーンさをアピール。当時のほかのトヨタ車とは“ひと味違う感”を醸し出していた。
トヨタ車以上に豊富だった日産の直線基調デザイン
日産車では、直線基調車がトヨタ車以上の豊富さだ。国産初ターボ車を登場させた430型グロリア(1979年)およびセドリック、7thスカイライン(1985年)、ローレル(1984年)などがそうだし、サニー(6代目・1985年)とそのクーペ版のサニーRZ−1(1986年)は、これはもう水平基調のクッキリとキャラクターラインの入ったアンダーボディとウインドゥグラフィックがシュッ! と真っすぐで潔いほどだった。
そして1978年に登場し“パルサー・ヨーロッパ”を謳い文句にした初代パルサーも、直線基調の2ボックスカーで、プレーンな打ち出しをしていた。
同様にそれまでのバイオレットに代わるポジションに登場したオースター(初代・1977年)も、セダンとリヤハッチをもつマルチクーペともに、いかにも機能性の高そうな直線基調のスタイリングを売りとしていた。