転倒・落下防止のクレバス・バーにはソーラーパネルを装備
キャタピラを後車軸のハブそしてリヤフレームにマウントするためのアームは、熱による変性や溶接割れのしにくいT45合金を、火花の散らないTIG(タングステン不活性ガス)溶接で仕上げている。ようは少ない母材で軽く、強度の高い溶接処理がなされており、ロールケージやクレバス・バーも同じくだ。
クレバス・バーの上面はソーラーパネルになっており、最大150Wの電力が供給可能。運転視界を妨げないよう、フロントボンネット周辺から2.1mものブリッジを介して、これまたT45合金で頑丈に製作。万が一にクレバスに落ちた際にも、浅いところで車体が引っかかるよう装着されている。
乗員2名が補助なしで車内に乗り込めることも重要な要件で、キャビン内にはサバイバル用の防寒着、飲料水、そして通信機や12Vの低圧コンプレッサーが積まれている。ちなみにリヤウインドウは、緊急脱出口を兼ねている。
面積あたりの設置圧を大幅に減じて軽々ドライブ
ほかに足まわりで注目すべきは、車軸のベアリングにはデュポン社による低温用グリースが用いられること。車軸やフロントのスキーも、ひとりで着脱できるよう設計されており、5cmの新雪の上で、スキーの接地圧は最大でも1インチ四方あたり1.2ポンド(=約545グラム)ほどしかない。というのも、スキーやキャタピラを装着したことで、ノーマル356Aより重量は当然増す。しかし雪上での接地圧をノーマルの車輪のたった4%以下にまで減じることに成功したため、新雪の上でも車体は沈むことはない。前輪に代わりにスキーでどう舵が効くかといえば、下面にブレードがあって、方向舵の役割を果たすのだとか。
空冷エンジン&RRレイアウトは極地で強みを発揮
そう、キャタピラ&スキー仕様のポルシェ356Aは、見た目とは裏腹に、環境にできるだけ足跡を残さない、サステイナブルな冒険をも提案しているのだ。そのためには元の車両重量が軽く、南極で凍るであろうラジエターのない空冷エンジンで信頼性が高く、前後重量配分にも後車軸のトラクションにも優れるクルマが必要だった。そう考えるとポルシェ356Aは、むしろ極地冒険仕様として、必然の選択肢だったと結論づけられるのだ。