同じ排気量でも出力を高くできるエンジンだった
マツダのロータリーエンジンに対する愛着は、ロータリーエンジン愛好家だけでなく、マツダ社内にも根強い。それほど、独創性に満ちたエンジンであったといえる。
ヴァンケル型といわれる方式で稼働するロータリーエンジンは、まずドイツNSU(現在のアウディ)で実用化された。しかし販売された台数は限られ、1977年まで生産されたが以後は沙汰止みとなっている。そのNSUと提携し、あらためて量産・実用化したのがマツダ(当時は東洋工業)だ。
1967年のコスモスポーツが第1弾で、その後、ロータリークーペやルーチェ、あるいはコスモといった乗用車へも展開し、スポーツカーのRX-7が誕生する。
ロータリーエンジンは、ピストンが上下動するレシプロエンジンに比べて小型でありながら、2ストロークエンジンのように連続して燃焼させることができるので、同じ排気量でも出力を高くできる。まさにスポーツカーにはうってつけのエンジン形式だった。
ホンダのCVCCと変わらぬ早さで排出ガス規制をクリア
一方、1970年から世界的に対応が求められた排出ガス規制や、1980年代の石油危機を発端とした燃費向上では苦労することになる。一番の要因は、レシプロエンジンの燃焼室が円形であるのに対し、ロータリーエンジンは長方形であることだ。また、繭型をしたハウジング内を三角形のローターが回転しながら、燃焼室が移動していくことも、つねに同じ位置で燃焼を行うレシプロエンジンと異なる特徴である。
燃焼室形状と、燃焼室が移動していくというふたつの点で、たとえば排出ガス規制では窒素酸化物(NOx)の排出量がロータリーエンジンは少ないという利点がある。一方で排出量の多い炭化水素(HC)の処理が必要になり、サーマルリアクターと呼ぶ排気を過熱しHCを燃焼させて酸化する方式で対処し、ホンダのCVCCと変わらぬ早さで排出ガス規制を達成している。燃焼室が移動するため混合気の燃焼温度が低く、燃え残った燃料がHCであり、それを排気後に再度燃やすことで浄化する対策だ。
ほかの自動車メーカーも、三元触媒が開発されるまでは、CVCCやロータリーエンジンの研究をしたほどである。
ロータリーエンジン復活は難しい?
燃費については、今日も解決策はあまりない。四角い燃焼室の隅々まで火炎を伝播させ、燃料を燃やし切るのが難しいからだ。そのため、点火プラグを2個設けたこともあった。とはいえ、今日レシプロエンジンの円形の燃焼室でさえ、燃料を燃やし切るのは容易ではない。ロータリーエンジンを、主用動力として復活させるのは多難であるということだ。
しかし、燃焼室が移動することで燃焼温度が低いことは、水素エンジンに向いているし、ガソリン以外の燃料への適応も不可能ではない。たとえばEVの発電機用エンジンとして補助的に活かす道はある。ロータリーエンジンは振動が少ないので、モーター駆動のEVの滑らかな走りを損ないにくい特徴も活かせる。
レシプロエンジンでも、単独での存続は排出ガス浄化と燃費で難しい今日、ロータリーエンジン車の復活は難しいだろう。それでも、ロータリーエンジンの特性を活かした発電用など、災害対応を含め技術を活かせる分野はあるはずだ。