オレンジの車体色がインパクト大だった
オレンジ色の憎い奴……というと、かつて某タブロイド紙のCMで盛んに使われていたキャッチフレーズ。そんなの知らない……という方もおられると思うが、ここは強引に話を進めると、リヤクォーターウインドウの形が人の目の形に似ていることから、その部分をシンボル化した広告を新聞に載せるなどしてティザーキャンペーンを展開。1970年10月に正式に登場したのが、この日産チェリーだった。
“にくい奴です。超えてるチェリー。”が最初のコピーだったから、冒頭に書いた新聞のキャッチフレーズと奇遇にも一致していたのだが、筆者が着目したのはソコではなく、チェリーがオレンジ色のボディカラーを訴求色に登場してきた点。クルマの色としてはかなり斬新な印象だったが、そういう強いインパクトで打ち出してきたのが印象に残っている。
サニーと同じパワートレインを横置き搭載しFF化
1970年といえば世の文化的には若者の間で(などと書きながら筆者はもっと子どもだったのだが)ヒッピーとかサイケデリックが流行していたころで、まさしく“ナウなヤング”がターゲットだった。“走る機械から着るクルマへ”とカタログには記されている。
そして実車だが、搭載エンジンが1000ccと1200ccの2本立てという点では同世代の2代目サニーと共通だった。ただしチェリーは日産車初のFF車として登場、エンジンは横置きとしていた点がサニーとの相違点だった。エンジンはのちに名機と言われたA12型およびA10型。4サイクル水冷頭上弁式(OHV)で、当時のカタログの諸元表にはA12型が“SUツインキャブレター、A10型は“2連式気化器1コ”と書かれている。ちなみにこのA12型はチェリーの高性能シリーズとして用意された“X-1”に搭載されるもので、80ps、デュアルエキゾースト、5ベアリング式で最高速160km/h、0→400m17.3秒との記述がある。
そしてFFについての説明も入念だ。FWDをフロント・ホイール・ドライブと丁寧に説明した上で、“F.W.D.方式は車が進む方向にむかって引っぱるように駆動力がはたらきます。正確で安定しきった走行を示す、最も理にかなった駆動方式といえるわけです(カタログの文面より)”とも記してあり、FFをいかに理解してもらうかに注力が払われていたことが伝わってくる。“440万km耐久テスト、走りも走ったり地球110周!!”と、新しいメカニズムでも何ら心配は要りませんよ……ともアピールしている。
メカニズム系の話の流れで言うと、サスペンションはフロントがストラット式、リヤがトレーリングアーム式の4輪独立懸架が奢られていた。“ぴたりと路面にすいつく抜群の安定性。高速時代にふさわしい最も高度な機構です”とカタログには記されていて、HSS(ハイ・スピード・サスペンション)なる呼称も与えられている。ステアリングはラック&ピニオンで、これも“高速走行中の安定感も無類”“スポーティな切れ味のよさも大きな特徴”と説明がある。
コンパクトかつ軽量なボディで走りも際立った
ちなみに前述のオレンジ色のカタログ名は“トロピカルオレンジ#052”といい、初代チェリーのキュートなスタイルに、じつに合った色だった。スタイリングはセミファストバックを採用した、コロンとした“カプセル・シェイプ”と呼ばれた。例の切れ上がったサイドウインドウは“アイライン・ウインドウ”と名付けられ、この同じデザインで4ドアと2ドアのセダンのほか、バンも設定があった。
ボディサイズは全長3610mm×全幅1470mm×全高1380mm(X-1は1375mm)とコンパクトで、車重さも610〜670kgと、今の時代から考えるとかなりの軽量だ。さらに1971年になるとクーペが登場。どことなくロータス・ヨーロッパを思わすシルエット(といっても車高はあそこまでは低くはなかったが……)のユニークなスタイルが印象的だった。オーバーフェンダーを装着したX-1・Rも設定され、レースシーンでも活躍をみせた。
2代目は上質さを追求していった
さらに1974年になるとフルモデルチェンジを受けて2代目に進化。車名もチェリーF-IIとなった。この世代は初代に対しセダンで比較すると全長が+215mm、全幅が+30mmと大幅に拡大。ホイールベースも60mm伸びた2395mmになったものの、全高は反対に30mm低められた。スタイリングは何となく初代のイメージを残しつつも、フロントグリルまわりのデザインでも明らかなように、当時のブルーバードUに寄せたようなやや上級志向となった。
インテリアも上位グレードのGLではインパネやステアリングホイールのスポーク部に木目を使うなどし、豪華な雰囲気を演出。装備では、スポットライト付きルームランプや、マジックテーブルと呼ぶ、テーブルや物入れとしても使えるアームレストを後席に用意するなどしている。クーペのハッチゲートには、パノラマウインドウと呼ぶサイドまで回り込んだ5mm厚の強化ガラスが採用された。日産のリッターカーとして、のちに登場するマーチのいわば先祖に当たるモデルがこのチェリーだったのだ。