60~70年代の絶対王者だったS20型エンジン
1960~1970年代の国内における市販最高峰エンジンといえば、3代目スカイラインのハコスカ(C10型)、4代目スカイラインのケンメリ(C110型)、初代フェアレディZ(S30型)に搭載されたS20型だろう。
当時は国内外を含めてほぼレース用エンジンにしか採用されていなかった、1気筒あたり4バルブを採用した2L直6DOHCエンジン。160ps(グロス表示/ハイオク仕様)のパワーは排気量を上まわる、いずれのユニットも凌駕する国内最強スペックだ。さらにレース用にチューンされていれば260psを絞り出すなど、そのポテンシャルは一級品で、絶対王者として誰からも一目置かれるエンジンであった。
L型エンジンオーナー憧れのツインカム化を実現したオーエス技研
一方、スカイラインとフェアレディZの量販モデルや、そのほか日産のハイエンド車種に搭載されたS20型と同じ2L直6のL20型は、設計の古いターンフローのOHC。同じ市販車用エンジンでは30ps劣っていたが、大量生産を前提としたモジュール設計であったため、大きな排気量のエンジンを作ることが容易で、排気量は2.8Lまでを用意。レースでは2.4LのL24型をフェアレディZに搭載し、ハコスカGT-Rと互角のタイムで駆け抜けた。
市販車の世界でも排気量の差を生かしたチューニングにより、パフォーマンスはGT-Rを大きく上まわっていたのだが、DOHC4バルブのステータス性は高く、いつの時代もL型はS20型よりも格下に見られていたのは確かだ。
そんなL型ユーザーの溜飲を下げたのが、1980年に登場した「オーエス技研」のオリジナルのツインカム4バルブヘッドである「TC24-B1」。L28型ブロックへの搭載を前提に製作され、組み合わせることで325ps(ノーマルのL28型はグロス値で145ps)までパワーアップできる。L型エンジンに唯一足りなかったDOHC24バルブという最後のピースを手に入れられるTC24-B1は、オーナーやファンに歓喜を持って迎えられた。
加工や解析技術が進化しブロック&シリンダー製造が身近に
ただし、シリンダーヘッド単体で159万8000円、L28型ブロックのアッセンブリーエンジンで238万円と当時としてはかなり高額(新車の初代ソアラの2L上級モデルが買えた)。さらに自動車メーカーではなく、岡山の小さなメーカーが作ったエンジンへの信頼性に疑問を持った人も多く、裕福な9人のオーナーの手に渡っただけで、このプロジェクトは一時休止となっている。
幻のエンジンとなったTC24-B1は2012年に現代基準の技術を取り入れ、「TC24-B1Z」として復活した(パワーも3.2Lで420psまでUP)。製造技術の確立、オーエス技研の知名度向上、そしてインターネットの普及で詳細な情報を容易に得られるようになったこともあり、TC24-B1Zは570万円からという高額ながら注文が殺到。2021年までに初代を上まわる30機以上が国内外のオーナーの手に渡り、S20と負けず劣らない憧れのエンジンとしてL型フリークを熱狂させている。
TC24-B1Zエンジン以降、L型のツインカムエンジンは登場してこなかったが、最新のリバースエンジニアリング技術、鋳造技術、加工するマシニングマシンの進化などにより、比較的安価に鋳造製品を作ることが可能となった。その流れもあり、熱狂的なフリークの手により新たなL型用シリンダーヘッドが誕生している。