Can-Amで磨いたターボの技術を活かして開発された
ポルシェ935は、数多くレースに参加してきたポルシェの、市販モデルとその発展モデルの頂点とも言うべきモデルの好例です。そのベースとなったのは934でした。
もちろん、さらにそのベースを辿っていくと930ターボになるのですが、レース参加を目指すプライベートに供給されたクルマが934で、今でいうカップカーやGT3の立ち位置でした。わずか31台しか生産されなかったワークス仕様の934だけでなく、グループ4のホモロゲーション(車両公認)を受けるために生産された、400台以上のベース車も含めて934を振り返ります。
大排気量のアメリカンパワー相手に磨かれたポルシェのターボチャージング技術
排気の流れを利用してタービンを回し、より多くの混合気をエンジンに送り込むターボチャージャー。市販乗用車で最初に装着したのはゼネラルモータースのオールズモビルF85とシボレー・コルヴェアで、1962年のことでした。
ヨーロッパでは1973年にBMWが2002ターボで初めて採用しています。ポルシェも1973年のフランクフルトショーでターボモデルのプロトタイプを披露し、1975年から市販を開始しています。やはりポルシェらしいのですが、ターボチャージングの技術はレースの現場で磨いていました。
舞台となったのは北米を舞台に戦われるカナディアン-アメリカン・チャレンジカップ、通称Can-Amシリーズでした。北米を大きなマーケットとしていたポルシェは、1966年に始まったCan-Amに初挑戦したのが1969年のこと。
当初は908での参戦でしたが、やがては917をベースにした917PAを投入しています。これは917の2ドアクーペボディに換えて、オープンシーターのカウルを装着したもの。エンジンは917と同様に空冷の4.5L水平対向12気筒で最高出力も560psで変わりありませんでした。ですが、ルーフを取り払った分だけダイエットされ、917の830kgから775kgまで55kgも軽量化を果たしています。
1969年から3年連続で国際メーカー選手権を制しているポルシェの主戦マシンを55kgも軽量化していればCan-Amシリーズでも楽勝か、と思われましたがライバルはさらに強力でした。
当時Can-Amで最強を誇っていたのはマクラーレンでした。シリーズの初年度となった1966年こそジョン・サーティスのローラがチャンピオンに輝きましたが、1967年から1971年まで5年連続でマクラーレンがチャンピオンマシンに輝いたのです。
その、文字通り原動力となったのはシボレーのV8エンジンでした。プッシュロッドと形式的にはクラシカルでしたがオール・アルミで軽量化を追求し、ロッカーカバーなどにはマグネシウム合金も使用されていました。何よりも排気量は7リッターで625psの最高出力と野太いトルクを捻り出していましたから、560psの917PAで対抗するには少し荷が重かったようです。
マクラーレンも1969年のチャンピオンマシンとなったM8Bでは、アルミパネルによるモノコックフレームを採用、車輌重量も670kgと軽量に仕上がっており、シャシーでも後れを取る格好となっていました。そこでポルシェが放った秘密兵器がターボチャージャーだったのです。
一度は840psを捻り出すNA版の6643cc水平対向16気筒(!)エンジンも計画されました。実戦に登場してきたのは4.5L/5Lの水平対向12気筒ターボで、それぞれ850ps/1000psを絞り出し、1973年用917/30では5374ccまで排気量を拡大。1100psの最高出力で王座を奪っています。