昔憧れた層だけでなく若い世代もファッション感覚で旧車に注目
1960~1970年代のヒストリックカー、1980~1990年代のヤングタイマーなど、日本の高度成長期からミレニアム以前に登場したクルマの中古車相場が高騰している。このことは本サイトを含め、多くの自動車メディアで何度も取り上げられているので、ご存じの方も多いことだろう。
安全面、環境面に強く影響されないこれらの時代に生まれたクルマたちは、スタイリングやメカニズムなど現行車にはない魅力を備えている。昔の憧れから手にする団塊ジュニア以上の世代だけでなく、当時をまったく知らない20~30代も増えつつある。
旧車を末永く愛し続けるために必要不可欠なのは部品の供給
購入については費用の面さえクリアになれば難しくないが、維持していくことはハードルが高い。とくに問題となるのが部品の供給。国内の自動車メーカーは一定期間は部品を作り続けてくれるが、それもおおよそ生産中止から15年程度まで。今回ピックアップした世代のクルマたちは、いずれもその賞味期限が過ぎている。
人気車種で、部品が定期的に動くのであればある程度は継続生産してくれる(それでも部品の保管費用、型が悪くなれば作り直すためその費用が上乗せされるため、年々高くなる)が、不人気車種となれば、あっさり生産中止。それがクルマを動かすために必要不可欠の部品となれば、その時点で愛車に乗れなくなってしまう。
そのため一部の人気車種について、ヤングタイマー世代は5年ほど前からいくつかの国産自動車メーカーで純正部品の復刻を開始しているが、ヒストリックカーの世代に至ってはそれ以前からマーケットに数多くのリプロパーツが存在している。「ノスタルジック2デイズ」は全国のリプロパーツメーカーが多く集うため、実際に商品をじっくり見られる機会として、旧車ファンの恒例行事となっている。
旧車ショップが独自開発したリプロパーツは2000年代中盤に登場
ヒストリックカー世代用のリプロパーツが登場したのは2000年代の中盤ごろ。きっかけはハコスカ(C10型)、フェアレディZ(S30Z)といった人気旧車の純正部品枯渇だ。2000年に大量生産が行われたのが最後で、2005年ごろには底をつき始め、部品が異常高騰したのきっかけだった。
ただし、ヒストリック世代の旧車部品は現在のような自動車メーカーの手による再生産ではなく、「このままでは仕事ができなくなる」と旧車ショップが独自にルートを開拓し、「無いものは作る」精神で製造・販売にこぎつけたものだ。
また、平成に入って純正パーツは型が悪くなったため、商品のクオリティは大幅低下。取り付けるのにもひと苦労した経験から、純正以上の品質と精度にこだわったそうだ。
当時は今ほど旧車のマーケットが盛り上がっておらず、小ロット生産だったため、生産終了前の純正部品よりもかなり高かった。そのため、ユーザーから「高い」と不満も出たそうだが、度重なる純正パーツの価格改定で、リプロパーツの方が安くなり、認知度の高まりとともに品質も高さも認められ、旧車ファン/ショップからの引き合いも増えた。
自動車メーカーのヘリテージパーツは発売まで時間がかかり高額な理由
現在はハコスカ、ケンメリ(C110型)、初代フェアレディZ(S30Z)であれば、内外装部品、ムービングパーツ、ゴム類など骨格とエンジン本体さえ生きていれば、再生できるほどパーツは揃う。その数は1000点以上にもおよび、生き長らえさせるための体制は整っている。さらにこれまでは上記の3車種が中心であったが、旧車ブームの盛り上がりにより、対応車種は年々増え、マーケットはいまだ活気に満ち溢れている。
では、なぜヒストリックカー世代はここまでパーツラインアップを拡大でき、ヤングタイマー世代はなかなか増えないのか? それは製造がアフタパーツメーカーが行っているか、自動車メーカーが手掛けているかの差だ。
現在、自動車メーカーが手掛けるヘリテージパーツの多くは、新車時に製造していた部品メーカーに製造を依頼している。一度製造中止にした部品を再生産する場合、新たに自動車メーカーの基準を満たすためのテストが必要で、世に出るまで時間がかかる=費用もかかる。品質も保証し、安心・安全なものを提供するために妥協はなく、その工程を簡略化することはできない。
市販のリプロパーツは中国で生産され独自基準なので開発速度は速い
一方、市販のリプロパーツは多くが中国の工場で生産。所有する純正部品を持ち込み、試作品を製作する。それを日本で品質管理して問題がなければ製造する流れだ。自動車メーカーほど厳格な精査はしていないため、設計から製造までのサイクルは早く、価格も抑えられるというわけだ。すでに15年以上の歴史を持ち、商品に問題があるという話を聞くことは今ではほとんどない。
また、純正部品を当時のまま復刻させるメーカーのヘリテージパーツに対して、最新の素材や材料を使用し、よりクオリティの高い商品を提供することにも余念がない。見た目は純正に酷似しているがアップデートしている部品も登場し、カスタマイズパーツとしての役割を果たしている。制約がない分、自由度も高いのが魅力だ。
今後はヤングタイマー世代にも広がりを見せるかが気になるところだが、それは自動車メーカーがどこまでヘリテージパーツを製造するかによるという。正統派にとっては価格よりも純正パーツという部分に価値を見出している人も多く、社外品として同じリプロパーツを製造しても売れない可能性が高く、検討しているが様子見とのこと。昔からのリプロパーツメーカーだけでなく、新興メーカー/純正部品を手掛けている部品メーカーなどの参入もあり、徐々にだが広がりを見せている。
復刻パーツは旧車の人気を保ちオーナーに安心という価値を届ける
ただ、残念ながらいずれも人気車種が中心で、不人気車種、レア車はクルマに精通する主治医を探し、ドナーを用意したり、ネットで部品を探したり、オーナーズクラブに参加してさまざまな情報を得るなど愛車が機能停止に陥らないよう努力する必要があるのは変わらない。
それでもリバースエンジニアリング技術、まだ量産化には至っていないが金型を必要としない日産の対向式ダイレス技術など、さまざまな新しい手法の確立で「無いものを作る」ことは少しずつ可能になりつつある。旧車のリプロパーツは愛車に長く乗り続けるためだけでなく、旧車人気を保ち、オーナーに安心という価値を届けているのだ。