AT任せのほうが操作がひとつ減り運転に集中できる
日本で販売される乗用車の新車の99%がAT車となった今の時代、サーキットでのスポーツ走行もAT車で楽しむ人が増えてきている。
そうしたときに悩むのは、ATでもマニュアルモードで走った方がいいのか、それともシフトチェンジはAT任せにした方がいいのかという問題。これはATのできの良さ、プログラムの賢さにもよるが、よくできたATならば、スポーツモードのフルオートで走るのが一番効率がいいはずだ。
エンジン出力的にはフルオートで走った方がロスは少ない
例えば、トヨタのA90スープラはMT車の設定がなく、8速トルコンATを搭載している。このATはZF製8HP(8速AT)で、レシオカバレッジが8.2とかなりワイド。しかもDCTに匹敵する変速スピードを兼ね備えている。
こういうワイドなレシオカバレッジと多段化を組み合わせたATならば、アクセルオンのときはもちろん、(プログラム次第で)アクセルオフのときでもずっと高回転がキープできるので、立ち上がり加速はかなり速い。
CVTならなおさらで、エンジンの回転数は一定のまま、CVTで車速をコントロールすることが可能となる。スポーツモードが優秀ならば、加速中でも減速中でもパワーバンドから外れることはない。
もっともスポーティなDCTでも、じつはマニュアルモードを使うと次の変速に備えて油圧がかかったままになるので、その油圧発生のためにエンジンパワーを喰われてしまう。エンジン出力的にはフルオートで走った方がロスは少ない。
ドライビングの面でも、シフト操作をATに任せっきりにすることで、ドライバーは自分の限りあるリソースをステアリング操作と、ブレーキ操作、アクセル操作に集中でき、より正確でミスの少ない走りが体現できるため、結果としてタイムアップにつながりやすい。
グランツーリスモなどドライビングゲームでも、慣れないコースでは、ATモードで走った方が走りやすくてタイムが出るのと同じ原理だ。ちなみにいまのF1のレギュレーションでは、
・ギヤチェンジはドライバーが「機械的」に制御できなければならない
・セミATは可。フルオート(自動ギヤチェンジ)とCVTは使用不可
となっている。フルATを認めてしまうと、ドライバーのスキル差が小さくなって、クルマが速くなりすぎるためだ。1993年にウイリアムズがFW15CでCVTのテストも行っていたが、実質アクセル全開率100%のまま走れるので大きな武器になると予想された。しかし、1994年のハイテク禁止レギュレーションに抵触し、実戦投入は見送られたが、速さを追求すればフルATになるのは間違いない。
ボトムスピードを落とさない走り方(ライン)を研究するのもドラテク向上につながる
フルオートではエンジンブレーキが弱くて、減速が……と思うかもしれないが、減速は基本的にフットブレーキの仕事。ATではブレーキパッドの消耗が少々早くなることはあっても、ATだから止まらないということはないだろう。
筑波サーキットのダンロップコーナーの進入などは、減速のためというより、フロント荷重を増やしてからターンインさせるため、MT車だとアクセルチョイ戻しできっかけを作ることがある。だが、AT車だとアクセルオフでの荷重移動は少なく、荷重移動が不足していると思うこともあるだろう。そういうときは、ちょっとブレーキを踏んでやればいいだけなので、そのことがビハインドになることはなく、乗り方を変えればいいだけだ。
ただ、小排気量かつギヤの段数が少ないAT車はフルオートで走ると、コーナー立ち上がりでパワー不足を感じることも否めない。
こうしたときはマニュアルモードを使ってもいいが、立ち上がりの鈍いクルマ(ギヤ)で、コーナリング速度を稼ぎ、ボトムスピードを落とさない走り方(ライン)を研究するのも、ドラテク向上に役立つ。そのため、あえてフルオートで走り続けるのもひとつの手だ。
というわけで、基本的にはスポーツ走行でもマニュアルモードではなく、スポーツモードのフルオートで走るのがおすすめだが、クルマによっても違いがあるので、両方試してみるのがベスト。さらに効率だけでなく、せっかくならパドルシフトを使ってアクティブにシフト操作してみたいという人も、それを楽しめばいいと思う。
MT車だって、コーナーによって4速or3速、3速or2速と迷ったりすることがあるように、AT車もいろいろ試して、自分に合った使い方、走り方を模索してみよう。