実力はもちろんだが警察の威信をアピールする役目も
日本でも「NSX」や「GT-R」、「フェアレディZ」といったスポーツカーベースのパトカーは、県警の人気コンテンツといえるが、世界を見渡せばスーパーカーの制式採用は珍しくない。現場への急行や過激化するスピード違反の取り締まりなど、その抑止力になるといった、まるで飛び道具かミサイル扱いの理屈もあるが、採用する側の警察組織、もしくはさらなる権力者の好みも絶対にあるだろう。
スーパーパトカーの名産地といえば中東
でも原資は税金でしょ……というロジックの手前、通常の民主主義国家ではメーカーからの寄贈によるケースが多いようだ。スーパーカーの産地であるイタリアでは、マフィアから没収したフェラーリをパトカーに転用したこともあった。捜査でも取締りでも、仕事してますよアピールとして一石二鳥というワケだ。
そもそもスーパーなパトカーは、原資というか燃料が売るほどある中東、サウジアラビアやカタール、アラブ首長国連邦といった産油国の名物でもある。バーレーンやカタール、アブダビにドバイといった主要都市の警察が軒並みスーパーカーを採用している。ランボルギーニ・アヴェンタドールやブガッティ・ヴェイロンまで投入され、世界最速パトカーを競っているかのような時期すらあった。ここ10数年の白眉を紹介していこう。
アラブ首長国連邦(UAE)/Wモータース・ライカン・ハイパースポーツ
現在は同国のドバイに本拠をおくが、元はレバノンのベイルートで創業したアラブ圏初のスーパーカーメーカー、「Wモータース」の「ライカン・ハイパースポーツ」。RUF製の3.7Lフラット6エンジンに7速DCTを組み合わせ、770psで最高速は395km/h、トルクは1000Nmで0-100km/h加速は2.8秒というスーパースポーツが、アブダビ警察にパトカーとして採用されたのは2019年のこと。ちなみに車両価格は3.4ミリオンダラー、つまりざっと4億円強で、7台だけの限定生産だった。そんなスペック祭りの大将みたいなハイパーカーを何て太っ腹な……と、路上のドライバーも世界のネット民も震撼したのだった。
英国/アリエル・アトム3.5R
英国南部のエイヴォン&サマーセット警察が、とりわけ「マン島TTレース」の時期にかまびすしくなるバイクの速度違反を取り締まるため、というよりは威圧的抑止力として導入した。なにせホンダ・タイプRの2Lターボ350psエンジンを積みながら、車重はたった550kg程度で、パワーウエイトレシオはじつに1.54kg/ps。0-100km/h加速は2.6秒と「ブガッティ・ヴェイロン」並で、バイクに追いつくのも現実的にできなくはない、というワケだ。
英国/ロータス・エヴォーラGT410スポーツ
これも英国南部、デヴォン&コーンウォール警察がロータス・カーズより2021年夏から、1年間の貸与がなされている。約9万ポンド(約1600万円)のスポーツカーであるという、価格面を地元メディアはとりわけ強調するが、そういうものだろう。用途としては高速道路での取締り強化はもちろん、地元の交通安全教室で意識向上に役立てるといった、日本のケースに近いところがあるようだ。
フランス/アルピーヌA110
昨年暮れ、フランス国家警察のBRI(Brigade Rapide d’Intervention/高速機動隊の意)の新車両として、26台の「アルピーヌA110」が納められたと発表された。それ以前に用いられていた、「ルノー・メガーヌR.S.」の退役に伴っての採用だ。
とはいえA110は、最高速を競うタイプのスポーツカーでないことは周知の通り。今や、極度の速度違反者を追いかけてインターセプトするといった目的は、ヘリやタイヤをパンクさせるスパイクなどの、クルマ以外の手段が主流。むしろ、事故や事件が起きたときに警官が安全に速く駆けつけ、現場を素早く確保するための目的が強いという。ちなみにパトカーが違反車をがっつり加速して追いかけていた時代は、「スバル・インプレッサSTi」が用いられていたこともあった。
イタリア/ランボルギーニ・ウラカン
一時の、パトカーがどんだけスーパーになるか競争のブームは過ぎて、近ごろはお国柄採用が多く見られるが、イタリア警察には「ランボルギーニ枠」というのが伝統的に存在する。現役世代は「ウラカンLP610-4」で2014年以来。それ以前は「ガヤルドLP560-4」が2008年から使われていた。長くやっていると活躍の場も多彩で、数年前にはポリス・ウラカンが腎臓の緊急輸送で活躍し、患者の命が助かったことが話題になった。