ボディ剛性の面で不利でありコスト高になるデメリットもある
前述の通り、コンパクトなクルマであっても後席乗員の乗降性にメリットがあるも、観音開きドアのクルマが増えていかなかったのはデメリットも存在するからである。それは開口部が広いことに起因しており、ボディ剛性や安全性の面において、クルマを作るうえで高いハードルとなるからで、ボディ剛性や衝突安全性を加味すれば、開口部が狭ければ狭いほど車両開発がしやすくなるという相反関係になる。
例えばMX-30の後席用ドア用として車内の天井部に大きくて頑丈なドアキャッチが備わるが、強度や耐久性を考えると強度を持たせた金属を用いなければならない。結果としてコスト高につながり車両本体価格に影響する。つまり、限られたスペースのなかで後席乗員の乗降性を高めるために、開口部が広い観音開きドアを採用することで、どうしてもコストが嵩んでしまうのだ。
コーチドアはショーファーカーとしてさまざまなメリットが享受できる
それでも観音開きドアを伝統的に採用し続けているモデルがある。それが高級車のロールス・ロイスだ。ロールス・ロイスは言わずと知れた世界最高の後席優先車両(ショーファーカー)メーカーで、伝統的に観音開きのコーチドアを採用してきた。それは高級サルーンモデルのファントムやゴーストに止まらず、2ドアのレイスやオープンカーのドーン(2ドアのため観音開きではなく後ろヒンジドア)や、最新SUVのカリナンもそうだ。
この伝統は、ヒンジなどの構造からコーチドア(ロールス・ロイスの呼称)の方が、ドアの開口部を広く取ることができ、イブニングドレスでも乗り降りしやすいことや、後席優先の歴史が長かったことが理由だと思われる。とくに長いスカートの淑女が前ヒンジの後席に座ろうとすると、どうしてもスカートの後ろ側が車体に触れそうになって気を遣うなんて場面を思い浮かべるが、後席が後ろヒンジのコーチドアであれば、その心配も少ない。
また、後席に座る乗員の乗降をサポートするために前席に座るお付きの方がドアの開閉を行うワケだが、コーチドアであれば後席ドアを開けるのにもスムースであり、後席ドアを閉めたあともすぐに前席に移動しやすい。さらに、後ろヒンジドアであれば車両後方に立つ形になるため前方を確認しながらドアを開け閉めできるメリットもある。やはり王侯貴族は何気ない所作も重要であり、ロールス・ロイスはそれを頑なに守ることで、ショーファードリブンの最高峰に君臨し続けているのだろう。
観音開きドアを振り返ると、初代トヨペット・クラウンやリンカーンの一部モデルなどがロールス・ロイスと同様に採用している。こうしたドアの開き方に注目してクルマを見てみると、クルマのデザインや走行性能とは違った新たな視点に出会うことができるので非常に面白い。