ドア開口部はもちろんシート形状も乗り降りに大きく影響する
家族に高齢者の両親がいたり、母親が子育て真っ盛りという場面では、クルマの後席は乗り降りしやすいほうがよい。高齢者対策でも福祉車両まではいらないということになれば、数あるクルマのなかからできるだけ後席の乗り降りがしやすいクルマを選びたいものだ。
その要点は、まずはズバリ、リヤスライドドアだ。当然、ミニバンやプチバンになるわけで全高とリヤドア開口高が高く、家の玄関ドアのように正面から頭を大きくかがめずに乗り込むことができるメリットは絶大だ。
それに加えフロアが低く、ワンステップで乗り降りできることも重要。ミニバンのなかにはフロアが高めで、階段を2段上がるようにツーステップで乗り降りするクルマもあるが、それよりはワンステップフロアのほうが快適に無理なく乗降しやすいことになる。
そして、乗降の際、手で体を保持するアシストグリップ(手すり)の位置も、乗降のしやすさのポイントとなる。セダンやワゴン、SUVなどは室内側天井端に付いているケースがほとんどだが、手首を返す必要があったりする。それよりは、より自然な動作でアシストグリップをつかめる、Bピラー側にある縦長のアシストグリップのほうが、とくに高齢者や小さな子供は握りやすいことになる。そうしたBピラーにある縦長のアシストグリップが付いているのもまた、ミニバンやプチバンである。
そして意外に見落としがちなのが、フロアに対するシートの位置=ヒール段差の高さ。一瞬、低いほうが座りやすいようにも思えるが、まったく逆。適度に高いほうが、腰を落としやすく、立ち上がりやすいのである。ローソファに座り立ち上がるのと、食卓の椅子に座り立ちあがるのとではどっちが楽か……と同じ理屈なのだ。そんなポイントから、乗り降りが自然としやすいクルマをピックアップしてみよう。
新型トヨタ・ノア&ヴォクシー
まずは最新の新型ノア&ヴォクシーが挙げられる。リヤスライドドア部分のステップ地上高は先代の360mmから380mmに高まってはいるものの、3万3000円(税込み)の格安のオプションでパワースライドドアと連動して出てくる“からくり”機構のユニバーサルステップが用意されている。さらに、ステップからフロアに段差のないワンステップフロアを採用する。
Bピラーには福祉車両的とも思える超縦長のアシストグリップが備わり、その約下半分は子どもが掴みやすいよう、子ども用自転車のハンドルグリップと同じ太さに細められているのだ。これは、結果的に握力の弱った高齢者にとってもうれしい配慮となる。そして2列目席のヒール段差は370mmと、乗用車としてもっとも高い部類に入るから、着座性、立ち上がり性ともに抜群なのである。
スズキ・ソリオ
プチバンと呼べるスズキ・ソリオも、リヤドアからの乗降性に優れた1台だ。両側スライドドアから乗降する際のステップは地上高365mmと低めで、もちろん段差のないワンステップフロア。足が通過する間口は最大460mmと広く、Bピラーのアシストグリップも適切な位置にあり、さらに後席のヒール段差は360mmと高めで、腰を下ろすのも立ち上がるのも比較的楽なのである。
こうしたプチバンはコンパクトカーにして後席のスライド機構を備えているから、乗降時のみシート位置を前寄りにセットしてあげることができる。そうすると、乗車時にはシートに腰を落とすまでの移動距離が最小限になるし、降車時には前席のシートバック上端を掴んで、体を支えやすくなるわけだ。
トヨタ・シエンタ
ミニ・ミニバンのトヨタ・シエンタも、リヤスライドドアからの乗降性に優れた1台だ。とくにステップ地上高はライバルのホンダ・フリードの390mmに対して330mmと、世界の自動車のなかでもっともフロアが低い部類で、もちろんワンステップフロア。
後席(2列目席)のヒール段差もフリードの310mmに対して340mmと高めで、腰を下ろす、立ち上がる、どちらもより快適なのである。他車にはなかなかない、縦長で背の低い人でも握りやすい後席乗降用のアシストグリップも完備する。