東北地方から下道でドライブしてくる猛者も!
ちょっと前まで世間で「若者のクルマ離れ」などとよく言われていたころは、クラシックカーの世界でもオーナー層の高齢化が進んでいたものだ。ところが、自分が生まれるはるか前の旧車に惹かれて乗りはじめる若者が、近年また増えてきている。
4月に和歌山市で開催されたクラシック・フォルクスワーゲンのミーティング「オレンジバグ」の会場にて、20代のワーゲン乗り7人にインタビューを敢行。今どきの若者が多彩なスタイルで旧車ライフを楽しんでいる様子をお届けしよう。
和歌山のVWオーナーたちによる手づくりイベント
数ある旧車のなかでも最大勢力のひとつであるクラシック・フォルクスワーゲン。タイプ1=「ビートル」やタイプ2=「ワーゲンバス」など、エンジンが空冷式だった時代のモデルということで「空冷VW」と呼ばれたりもする。全国各地で大小さまざまなイベントが行われていて、今年の春一番となった大規模なミーティングが、4月10日(日)に和歌山市・片男波(かたおなみ)海水浴場の駐車場で開催された「オレンジバグ・ビーチサイド・フェスティバル2022」だ。
これは地元・和歌山のVWオーナーたちが2018年に立ち上げたイベントで、コロナ禍による中断を挟みながら、今年で4回目。砂浜のすぐ脇にワーゲンを並べて春の日差しの下ゆっくり過ごすだけなのだが、さながらアメリカ西海岸のような雰囲気の良さで徐々に参加台数が増加。昨年に200台を超えていたのだが、2022年はついに350台を突破し、関係者のクルマも含めると400台近いVWが集まった。
関西エリアはもちろんのこと、関東地方や東北地方、西は九州からも、数々のワーゲン乗りたちが和歌山まで自走でやって来た。にぎわう「オレンジバグ」会場では、20代の若きワーゲンオーナーたちに続々と出会うことができたので、彼らの愛車とカーライフをご紹介していこう。
その1:秋田のビートル乗り、冬場は毎日高圧洗浄
秋田県の長澤潤平さん(22歳)は「秋55」の旧ナンバーを掲げた1975年式のビートルに乗って丸2年。その前から乗っていたザ・ビートルは去年手放し、それからはこれ1台体制で毎日、職場までの往復70kmも買い物も、なんでもこなしている。
雑誌「POPEYE」の時代を彷彿とさせるスキーキャリアは今年3月に取り付けたばかりのアイテムで、下のバンパー側のステーは地元のおじさんに作ってもらったのだとか。
「秋田県なので冬は毎日ビートルの下まわりを高圧洗浄してました。去年、自分でエンジンを降ろしてリフレッシュしたんですよ」
この和歌山のイベントへは、節約のために秋田から三重までずっと下道でドライブしてきて、三重で知人からETC車載機をもらってビートルに取り付けたのだそうだ。さらに自ら志願して「オレンジバグ」のイベントスタッフをしていたのだから、そのエネルギーには恐れ入る。
その2:ワーゲンバスで「車上泊」しながら下道移動
こちらの但木佑成さん(24歳)はワーゲンが好きすぎて、宮城県のVWショップ「ジュースアップ」で働いている筋金入りだ。昨年の秋には1966年式ビートルでドラッグレースに初挑戦もしている。
今回は1964年式のワーゲンバスの後ろが荷台になっている、「シングルピック」で和歌山まで駆けつけたのだが……。
「宮城を出てから、下道で1日半かけて広島まで行って、そこから和歌山までの区間だけ高速で来ました。帰りも宮城まで下道で帰ります。疲れたら荷台の上にテントを張って寝てますよ」と涼やかな顔で語ってくれた。
オンボロルックのワーゲンバスだが、よく見ると足元には16インチのラグタイヤを履いていて(純正は15インチ)、さりげなく雰囲気アップしているのだった。
その3:国産旧車を乗り継いだ末ビートルに
地元・和歌山にお住まいの森田崇睦さん(27歳)は、美容師用のハサミを作るという職人系のお仕事だそうだ。そんなコダワリがクルマ趣味にも反映されたものか、免許を取ってからずっと旧車に乗ってきたそうで、最初に買ったのがマツダ・キャロル(初代)。
今回乗ってきた1972年式ビートルは、じつはちょうど1年前、この「オレンジバグ」にて、売りに出ていた個体を買ったのだそうだ。
「最近スバルR-2(古い方)を手放して、いまは1978年式の三菱ミニカアミ55とビートルの2台体制です」とのこと。ビートルの足元には本物の「スプリントスター」ホイールを履いて、いくつものアクセサリーを取り付け、自在なカスタマイズを楽しんでいるようだ。
その4:友だちのお父さんから引き継いだワーゲンバス
1966年式の「タイプ2デラックス」という、ちょっと豪華仕様のワーゲンバスに乗って大阪から来た時井さん(23歳)は社会人2年生。1年前まではビートルに乗っていたそうだ。
「もともと中学の同級生のお父さんがこのバスに11年くらい乗っていて、手放すことになったのでお声がけしていただき、ビートルを売って乗り換えました。まだヘッドライトにアイブローを付けたりした程度ですので、これから少しずつ自分の色を出していきたいです」
その5:放置車両を譲ってもらって自分でレストア&カスタム
広島のSOLLAさん(23歳)の愛車は1967年式の「タイプ3バリアント」。いまで言うステーションワゴンタイプのVWで、スタイルと実用性の高さで人気があるモデルだ。この個体は高校3年生の秋、まだ免許も取っていないときに、20年以上放置されていた車両を譲ってもらって、可能な限り自分でレストアしてきた愛車だ。ボディのペイントも自分でやったという。
じつはSOLLAさんはついこの間まで鈑金塗装の仕事をしていたので、その手の作業はお手のもの。そしてこの春、ピンストライパーとして活動していくために独立したばかりだ。しばらく入院していたバリアントもイベントの3日前に戻ってきたばかりで、最近入手した「クレーガー」ホイールをバリっと履いて、春の門出のイベント参加となった。彼のピンストライプ作品はInstagramの「@19_s.a.w_98」で見ることができる。
その6:飲食店のお仕事でもバリバリ活躍
同じ「タイプ3バリアント」でも実用寄りで活躍しているのがこちらの1966年式。この年式までのオプションだったルーフの2トーンカラーとサンルーフがポイントだ。オーナーのヨスケさん(24歳)は名古屋で飲食店の店長さんとして働いている。1年半ほど前に、初めてのマイカーとしてこのクルマを買ったのだそうだ。
「父が昔ビートルに乗っていたのもあって、クルマが欲しいなと思ってビートルなどを調べていたら、“こんな実用的なクルマもあるのか!”って衝撃を受けてタイプ3バリアントを選びました。遊びにも使えるし、仕事で食材を運んだりもして活用しています」
その7:通りすがりの子どもに笑われてもコレが好き!
最近は「エイジングペイント」というクルマやバイクのカスタム手法もあるが、オリジナル塗装が自然な経年変化でサビたりヤレたりしてビンテージな風合いになるのを愛する、「パティーナ」あるいは「ラット」と呼ばれるスタイルもあり、海外のクラシックカーシーンで盛り上がって、日本にも波及してきている。
和歌山で介護士のお仕事をされている谷本幸謙さん(22歳)は、サビサビルックの1971年式ビートル1302が最初に買ったクルマで3年目。ヤナセ物の右ハンドル車で、オリジナル塗装がカサカサになっている。ルーフラックも木板の物をチョイスして、経年のヤレ具合を演出するこだわりようだ。
「通りすがりの子どもに“これボロボロ!”って指さされますが、これが好きで乗ってます。とことん磨けばキレイになるかもしれませんけど、やりません。屋根付き保管で、ずっとこのスタイルのまま乗っていきます」