個性派揃いのホンダのステーションワゴンを振り返る
現在のステーションワゴン文化を日本に定着させたのは、間違いなくスバルと言って過言ではない。現在もレガシィツーリングワゴンから派生したSUVのアウトバックを販売していおり、アウトバックにつながるレガシィランカスターを1999年にデビューさせるなど、スバルが残した功績は大きい。ところが日本のステーションワゴンを振り返ると、意外とホンダ車も多いことに気が付く。今回取り上げるモデルはほとんどが販売終了モデルではあるが、一時期はワゴン王国を築き上げたホンダのステーションワゴンを振り返りたい。
スタイリングがセンセーショナルだった
「アコードエアロデッキ」
あえて時系列からは外れるが、スタイリングが印象的だったのが3代目アコードのエアロデッキだ。シビックの兄貴分として登場した初代アコードは、当初3ドアのハッチバックで登場。その後、4ドアセダンが追加されるわけだが、リトラクタブルヘッドライトが印象的な3代目アコードに設定されたエアロデッキは、洗練されたスタイリングが現在でも語り継がれるほど個性的なモデルであった。4代目アコードでは5ドアのアコードワゴンが設定され、90年代には空前のワゴンブームが日本で巻き起こる。
木目パネル採用のホンダ初のステーションワゴン
「シビックカントリー&初代シビックシャトル」
それ以前のモデルでは、シビックカントリーに触れないわけにはいかない。こちらは2代目シビックをベースにしたホンダ初の本格派ステーションワゴンで、年配の方ならボディサイドにあしらわれた木目調パネルを思い出すのではないだろうか。トヨタのマークⅡバンや日産サニーカリフォルニアなど、80年代初頭のステーションワゴンは、軒並みウッドパネルを採用。バン=商用車ではないことをアピールしていた。
また、シビックカントリーの後継モデルとして3代目シビックベースのシビックシャトルが登場。そのフォルムはいまで言うステーションワゴンというよりも、3ドアハッチバックに後席ドアとラゲッジスペースを拡大した5ドアハッチの延長線上と言えるモデルであった。
さらに1987年には、4代目シビックベースの2代目シビックシャトルが登場。この世代では派生モデルとしてカンガルーバーとフォグランプを備えた「ビーグル」も発売される。商用バンの「プロ」グレードもあったが、いかんせん商用車はトヨタと日産が強く、ホンダに勝機がなかったのは仕方ないことだった。
アコードワゴンの弟分的な存在であった
「オルティア&初代パートナー」
2代目シビックシャトルの実質的な後継モデルとなるのが、当時ライトクロカンと呼ばれていたいまで言うSUVの初代CR-V(1995年発売)であり、1996年発売のオルティア&パートナーにつながる。このオルティアはブームのなかで発売されたアコードワゴンの弟分的な存在で、パートナーはその商用版であった。
6代目シビックをベースとした5ナンバーサイズのボディに荷室を延長した形のステーションワゴンは、積載性の高いシビックという位置付け。販売台数は残したものの4WDがスバルのような本格的な仕様でなかったこともあってか、一代限りで終了となる。
逆にパートナーは、初代モデルはバンとしては珍しく4輪ダブルウィッシュボーン式を採用した走りが長距離移動も辞さないドライバーから高く評価された。ちなみに2代目パートナーはエアウェイブをベースにしており、商用車としては珍しいタコメーターやサイドエアバッグなどの安全快適装備も充実。後席用のパワーウィンドウがあることからも、現場の方から支持されたに違いない。ところが商用車を購入するのは使う人ではなくて社長。値引き競争に巻き込まれるとつらい……。そして歴史に幕を下ろすこととなる。
開放感たっぷりのスカイルーフが自慢だった
「エアウェイブ」
2代目パートナーのべース車であるエアウェイブにも触れておこう。このモデルは初代フィットをベースとしたオルティアのリトライ的な存在で、フィット譲りのセンタータンクレイアウトがもたらす広い室内と、開放感のある前席から後席まで広がるスカイルーフ(非装着車もあり)が魅力であった。
テレビCMでもスカイルーフ推しが強めで、頭上に空が広がる疑似的なオープンエアドライブを楽しむことができた。加えて5ナンバーサイズに収まるコンパクトなボディながら優れた積載性を誇り、フィットとは異なり1.5Lエンジンのみの設定が、荷物を積むワゴンにとってはこれが正解。
ところがデビューした2005年はすでにワゴンブームは終焉しており、一部の輸入車とスバル以外は売れない時代に突入。高い商品力があったエアウェイブもまた一代限りで終わってしまう。
見た目はステーションワゴンでも使い勝手が△
「2代目フィットシャトル」
そしてエアウェイブの受け皿となるのは、2011年に登場した2代目フィットシャトルとなる。このモデルは2代目フィットの積載性を高めたモデルでハイブリッド仕様もラインアップされた。また、ガソリンモデルにはFFのほか4WDも設定するほどの意欲作であった。しかしながらホイールベースはフィットと同じ2500mmのままであり、前後オーバーハングは伸ばされて4410mmあるものの、フィットの3900mmの全長に対して+510mm伸ばされるも室内空間に使われた部分は少なかった。
また全高は1540mmとなり、フィット(1525mm※FF)よりも高かったが、頭上空間で一番高い場所が前席後ろ(後席の前)という乗員の居住性にあまり影響しない部分であったこともあり、乗員にも積載性にも恩恵がなく、ただフィットの全長が長くて、少し背の高いモデルとなってしまった。つまりワゴンらしさを見出すことができなかったと言える。
クルマは秀逸だったがミニバン人気には抗えず
「シャトル」
そしてフィットから独立した現行型のシャトルが2015年に登場。ハイブリッドや本革シート仕様、シートヒーターといった装備充実のこのコンパクトワゴンは、ハイブリッドモデルにも4WDを設定。1.5L直噴i-VTECエンジン+i-DCDハイブリッドシステムには、ツインクラッチ式のトランスミッション(DCT)を採用した。ガソリンモデルにはCVTが組み合わされ、いずれも快適な走りをもたらしてくれた。また、2代目フィットシャトルのネガな部分を補うように、荷室もクラス最大級の570Lを誇った。
だがフィットが4代目に進化したなかシャトルの改良は聞こえてこない。販売台数こそ好調とは言えないものの、ミニバンを必要としない隙間的なユーザーに応えてくれる存在であった現行シャトル。月販台数のランキングではベスト50位以内に入るほどの数字を残しているだけに、少なくとも需要は一定数あるのだが……。
高級路線で押し出すもコンセプトが浸透せず
「アヴァンシア」
最後に番外編として紹介したいのが1999年にデビューしたアヴァンシアだ。新時代のアコードエアロデッキと期待されたこのモデルのクオリティの高さはなかなかのものであった。ホンダの上級ワゴンとして2.3L直4と3.0L V6のエンジンを搭載しており、ひとクラス上のリムジン空間&リムジンインテリアを商品力としたモデル。
特徴はホンダが「アーチキャビンフォルム」と呼ぶ、かつてのアコードエアロデッキのようなスタイリング。快適空間+上質空間+運転空間を合わせたものをリムジン空間=クラブデッキとホンダでは称しており、乗員のための新しいジャンルを開拓した。ルックスも走行性能も、さらに積載性も高次元でまとめられており、完成度の高さは秀逸であった。
だが世の中はすでにミニバンの時代であり、燃費もまた最優先の時代でもある。自動車税の高い排気量が大きいモデルは嫌厭される傾向にあり、素晴らしいツーリングワゴンであったアヴァンシアは、1代限りで姿を消すことになった。ちなみに特別仕様車として設定された本革シート(オプション装備)のヌーヴェルバーグは、日本のシューティングブレイクといって良いほどの高級なワゴンだったのだが……。正直なところ、あと5年、いや3年早く登場していたら、もう少し違った将来があったのでは? と思ってしまう。
【まとめ】電動化を推し進めるホンダの将来像にステーションワゴンは存在するのだろうか?
ホンダと言えばいまや軽自動車とミニバンのイメージが強いが、これから迎えるEV時代はどんな形状のクルマが人気となるのだろうか? 大きくて重たいバッテリーを積む以上、EVはSUVがメインになると思われるが、果たして電動化の時代にステーションワゴンは生き残れるのだろうか。