新車価格160万円~で若者が夢を見られた
トヨタから「セラ(Sera)」が登場したのは今から32年前、1990年のこと。当時(今も?)ケ・セラ・セラ(スペイン語で「なるようになるさ」)な人生を送っていた(いる)筆者は「そう来たかぁ」と、その車名を一種の感慨をもって受け止めていたような記憶がある。
当時のニュースリリースには「未来に向けてはばたく夢のある車との意を込めて命名」とあり、いわゆるターゲットユーザーを定めた開発手法は採らず、テーマに共感し、クルマに感動と興奮を求める人達のためのクルマとして誕生したという。広報資料の中でセラのチーフエンジニアが、若いメンバーとの開発を振り返って「後生畏る可し」と表現しているくだりがあるが、まさに後のトヨタ車開発の担い手の士気が高まった開発でもあったらしい。
扱いやすいトヨタ仕立てのガルウイング
広報資料には続けて「ガルウイングドアを開けると、新しいドラマが始まる」と、こちらはいささかベタな見出しが目に飛び込んでくる。だが、それはこの資料の編集を請け負った代理店の責任ということにして、「未知への翼SERA登場」とある、コンセプトパートとイメージパートの2冊が分冊されホルダーに収められたカタログは、やはり初々しい。
とくに海をバックにドアを開けたセラの姿(じつは同じような構図の写真を当時、筆者も撮った)は、まあ、セラに乗ったら誰しもイメージする典型的なシーンだったのだろう。ガラス張りの室内から見上げる青空とか、ベイブリッジの夜景がガラスに映り込むシーンとかラブ・ストーリーの挿し絵のようなカットも、セラに心を寄せるユーザーの気持ちを惹きつけたに違いない。
その一方でコンセプトパートのカタログのページを捲ると、こちらはほぼオーソドックスなクルマのカタログの体裁になっていた。最初にカラーバリエーションが比較的大きな扱いのセラの写真とともに紹介されているのは「らしい」。だが、さらにページを進めていくと、ガルウイングドアに関しての構造の説明があり、気温が変化してもほぼ同じ力でドアの開閉ができるように採用した「ドア操作力温度補償ステー」の話などが載っている。
たしかに実車のセラのガルウイングドアは、それまでに経験したスーパーカーなどのそれとは違い、日本人の体形でも閉める際、インナーハンドルを掴むリーチに困るようなこともなかったし、ことさら腕力を必要とすることなく苦もなく閉められたと記憶している。